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第2部 ハネムーン!?

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 アルダシールはネックレスをアシュレイの首にかけた。

 そのまま、後ろからアシュレイを抱きすくめると、首筋に口付ける。

「……っ!」

 不意打ちに思わず息を飲む。

 だが、すぐにアルダシールは離れたかと思うと、さっさと支払いを済ませてしまった。

「披露宴では無理だろうが、それまでは身につけていてくれよ」

「それまでどころか、プライベートの時はずっとつけるわよ」

 新婚旅行で大好きな夫からプレゼントしてもらったものだ。

 それにアルダシールの瞳に似ているから、離れている時も一緒にいるような気持ちになれるだろう。

 アシュレイもアルダシールも多忙な身の上で、互いに離れて政務を執る日も少なくない。

 責任のある仕事はやり甲斐もあり、任される喜びはあった。だがその影では寂しさも感じていた。

 国が未曾有の危機から脱却するかどうかの瀬戸際だったのだから、贅沢は言えない。

「そう言われると悪い気はしないが、国に戻ったらもっと良質の石を取り寄せて首飾りを作らせよう。それこそどん
な式典にも着用できるようなデザインで」

「そんな言い方したら、お店の人に失礼よ。それに、旅先でアルダが買ってくれたものだから余計に貴重なの。価値があるのよ」

「そうかそうか。なら、どんどん強請れ。他には何が欲しい?」

 茶化すような口調なのに、満更でもないような嬉しそうな表情を見せるので、アシュレイもまた嬉しくなる。

「あんまり甘やかされたら私、今日1日でダメ人間になっちゃうわ」

「俺の両親のために、アシュレイには大変な思いをさせて済まないと思っている。本来ならアシュレイは傾国の美姫と呼ばれてしかるべきなのに、俺の力不足だ」

「なぁに、それ。ダメにしたいの?」

 国を傾けずに運営するのが国王の責務なのに、アルダシールは大真面目に言うから可笑しい。

 アシュレイはクスクスと笑ったが、アルダシールの眼差しは真剣だった。

「とはいえ露店では高が知れているがな。さ、とっとと次へ行こう。時間は限られているからな」

「……そうね、行きましょう」

 国を傾けるのは頂けないが、こんな風にアルダシールと街をデートできる機会は滅多にない。

「これは、アルダに似合いそう」

「あの旅芸人の一座はアラウァリアにも来ていたわ」

 立ち並ぶ露店や物見の群衆をかき分けつつ、順繰りに冷やかしていると、ふと香ばしい匂いのする焼き菓子店に気を取られた。

「あっ、あれ。ワッフルーー」

 アシュレイは店を指差した。

 するとその瞬間、ゾクっと背筋に寒気が走った。

 アシュレイは直感的に、アルダシールに目を移す。

 アルダシールも半身を捻って躱したため、白く光った切先は腰元の衣類を切り裂くだけに終わった。

「アルダ!」

 犯人と思しき人物は、失敗したと見るや身を翻し、小柄な体型を利用して人混みに紛れようと駆け出した。

「大丈夫だ、アシュレイ。問題ない」

 アルダシールはアシュレイを止めようとしたのだろう。

 だが、アシュレイはアルダシールが無事だと確認すると、反射的に犯人を追いかけていた。

「アシュレイ、待て!」

 制止の声を背後に聞きながら、アシュレイは一目散に小さな背中を追う。

 紛れようったって、そうは行かない。
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