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王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

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「アラウァリア国王陛下はアシュレイ様を花嫁にお迎えになると仰せです。つまり、は、アラウァリア王の婚約者。ほどなくしてアラウァリアの正妃となられます」

 淡々とした口調ながら、良く通る声が静まり返った広間に響いた。

 公示未満だった慶事の報せに、聴衆は驚きにどよめく。

 アシュレイも例に漏れず、目を瞬かせた。

(ここって、言っちゃって良いタイミングだったの?)

「なっ……、そんな、馬鹿なっ……だって、アシュレイは」

「花嫁にお迎えになるに至った仔細は、お望みとあらば後ほど順を追って説明致します。つまり、立場で判ずるなら、無礼な振る舞いをしたのは母上なのです。私にとっては母上も大切なお方ですが、私は姉上と、その伴侶となられる義兄上をこの上なく敬愛しております。それに私の一存だけでなく、姉上との関係を否定されては、祖国に顔向けできません」

 キューベルルはシュナイゼルの言葉が信じられないらしく、はくはくと口を動かした。

 シュナイゼルの言葉は明け透けながら、正真正銘の事実だ。

 アシュレイがアラウァリアの正妃となる場合、出自がセレンティアの王女であるか否かで、セレンティアの国益は大きく左右される。

 しかし、シュナイゼルの口から”敬愛”なんて言葉が出るとは思いもよらない。

 敬愛されている気配など、微塵も感じなかった。

 セレンティアで共に過ごした月日は十年余り。

 アシュレイがキューベルルに虐げられていたどの瞬間も、シュナイゼルは今と変わらぬ冷たい眼差しで、ただ傍観するのみだった。
 
 思わず嘲笑が漏れそうになるが、口を結んで耐える。

 シュナイゼルがどんな気持ちで糾弾しているのかは知れないが、キューベルルはかつてないほどに顔色を失っていた。

 じわじわと、自分の立たされた窮地に思い至ったのだろう。

「ですので母上、先ほどの非礼を詫び、発言を撤回してください」

 シュナイゼルは冷ややかな眼差しで一瞥して、上向けた手をキューベルルからアシュレイへと動かして、謝罪を促す。

 不確かな足取りながら、キューベルルが一歩踏み出した。

 促された直後だったので、衛兵は謝罪をするのかと拘束を緩める。

「……そんな……誰が……」

 キューベルルの唇はわなわなと震えていた。

 一度口をすぼめたかと思うと、ぼそぼそと何事かを呟いた。

「そうよ。何も……」

 何かを思いついたように、サッと顔を上げる。

「母上、そのようなお声では聞こえません」

「ア、アラウァリア国王陛下。何もアシュレイでなくても……異国の風貌がお気に召したのなら、我が国には北欧の血を引く美女が数多あまたおりますわ。連れて参りますので是非一度、お目通りをお許しくださいませ」

「母上、正気ですか?」

 見た目には僅かに――狼狽するシュナイゼルを、アルダシールは片手を上げて制した。

「ほう。俺がその娘たちを見れば、気が変わるとでも?」

 提案に軽く応じたアルダシールに、キューベルルは手応えを得たと安堵した。

「はい。どの娘も皆、淑女の教育を受けた、慎み深い乙女です。どのような器量の娘がお好みかは存じませんが、きっとお気に召しますわ」

 アルダシールはその醜悪さを拒絶することもなく、まろび出たままのキューベルルの前に進み出た。

 膝を曲げて、ご丁寧にも目線を合わせる。

 提案を受け入れられた安堵に、キューベルルはホッと眉根の緊張を解いた。

 品を作り、媚びるような笑みを口元に湛える。
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