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新しい国

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 それを持ち出されれば、アシュレイは黙るしかない。

 医師のコニールから聞いた話によると、アルダシールは腹部におよそ8センチの刺創ししょう、手足の裂傷が6カ所、その他にもアシュレイ同様、大小の火傷を負っていた。

 アルダシールのほうがアシュレイよりよほど重傷だ。

 にもかかわらず、アシュレイの治療を先にしろと譲らなかったらしい。

「それは……。わから、なくはないですが……」

 大切に扱ってくれているのは、良く分かった。

 初めに、アシュレイをオスローへ送ろうとしたのも、アシュレイの安全を考えての配慮だった。

 しかし、急にはっきりと優しくされても、困ってしまう。

 色々な出来事が、僅かな期間に立て続けに起きたから、深く考える間もなかった。

 大切にされれば嬉しいし、アシュレイにとって今や、アルダシールの存在はかけがえのないものとなっている。

 けれどその感情がどこへ向かっていくものなのか。

 それについても、まだ考えが及ばない。

「殿下が即位されれば、アシュレイ様はお妃様になられるんですよ? 今の内からご自覚をお持ちいただかないと」

「未来の王妃様に何かあったら、多分俺らが罰せられるぜ? 頼むからいい子にしていてくれよ」

 2人の言葉に、うぐ、とアシュレイは言葉に詰まった。

 アルダシールが即位すれば、アシュレイも王妃になる。

 当然のような口ぶりだが、それはどうだろう。

 アルダシールが大切にしている女性だから、そこに異性に対する好意があると決めつけるのは早計ではなかろうか。

 まして、王妃の立場は重責が伴う。

「やっぱり、大袈裟よ。王妃なんて……そんなに簡単に決められるものじゃないでしょう? アルダシールがそうと言ったわけでもないし、アラウァリアの王妃ともなれば、人選だって」

「アシュレイ様は歴とした王女様でいらっしゃるんでしょう? その上、殿下の命の恩人で……横やりを入れられる人間なんて、この世のどこにもいませんよ」

「そんなことは……」

「良く言うよ。アシュレイだって、殿下が好きなんだろ? こんな無茶をするんだから。それで殿下が他の女と結婚してもいいってのか?」

 ジェニスは部屋から出ようとせず、マリアナを援護した。

 厨房は無傷だったのだろうか。

 トレーに乗った器からは、湯気が立ち上っている。

「それは……」

 アシュレイは言葉に詰まった。

 アルダシールが王子だった事実も、寝耳に水だった。

 好意に気付いても「だから、結婚して!」という気持ちには至らない。

 けれど、アルダシールが他の女性と結婚するなんて……考えただけでも胸が苦しい。
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