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代償
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「ん? お前……」
アシュレイの動揺を、男も見逃さなかった。
「あん時の女か!?」
(やっぱり!!)
アシュレイは、間髪入れずに剣を抜き払った。男は、すかさず応じる。
「ッ」
ガキンッと鋭い音を立て、男の長剣がアシュレイの大刀を受け止めた。
そのまま押し合う形で、踊り場で対峙する。
「ザイードか! そこを退けっ」
「いきなり、呼び捨てかよ。生意気な奴だ」
合わさった刃が、ギリギリと鍔迫り合いのまま拮抗する。
アシュレイは必死に押し返すが、力比べでは敵わない。
後方に退けるスペースがあるかどうか、ちら、と目を走らせた。
「余所見すんな。腹ががら空きだぜ」
「ぐふっ」
ほんの僅かな隙を、ザイードは見逃さなかった。鳩尾に膝がめり込む。
肺から空気が押し出された。
何とか防御の体勢を保ったが、一気に壁際へと追いつめられる。
「お前、とんでもなく大胆な動きをするくせに、妙なところで素人臭いのな。詰めが甘い」
交差した刃が鼻の先まで迫る。
「俺はな、見張りなんぞに立たされて気が立ってるんだ。この間いいようにしてくれた礼も含めてたっぷり仕返ししてやる」
「生憎……こっちは暇がない。とっとと退け!」
押されて体勢を崩す前に、足を払って懐に飛び込む。
よろめいたところに体当たりを食らって、ザイードは床に、強か尻を打ちつけた。
アシュレイはすかさずに踵を、ザイードの鳩尾にお見舞いしてやった。
「つったく、つくづく狂暴な女だ。そんなんじゃ嫁の貰い手もないだろ」
だが、すぐに悪手だとわかった。
足に肉を穿つ感触はなく、鉄板に蹴り込んだような鈍痛が走る。
帷子でも着込んでいたようだ。
「く……っ」
「けど俺も今日は完全防備だ。足癖の悪い女には、お仕置きが必要だな」
ザイードは上半身を起こすと、アシュレイの足首を掴んだ。
振りほどこうと抵抗を試みるが、そのまま引き倒される。
「い、つ……」
腰から床に叩きつけられ、一瞬息が詰まった。
「この前、言ったろう。お前は軽いって。捕まえちまえばこっちのもんだ」
「その相手にまんまとやられたの、忘れた……っ!?」
足を引き上げる一方で、ザイードは自身の足を、アシュレイの腹部を押さえつけるように搦めた。
得意気なザイードに、アシュレイは負けじと言い返す。
「あの時は油断してたが、今日は違う。一丁前に兵士を気取って敵地に乗り込んで来たんだ。覚悟はできてるんだろ」
覚悟なら、アルダシールに協力すると決めた時から、とうにしている。
けれど、足を掴まれたまま律義に返事をするのも癪なので、睨み付けるに留めた。
「アルダシール王子は人気者だな。こんなにひ弱な一般市民まで、兵士に志願させちまうんだから。そりゃ、半端な悪人はお呼びじゃねえや。……なあ、何て口説かれたんだよ」
ザイードは、不貞腐れたように愚痴を零しながら、掴んだ足首に力を込めた。
(痛っ……!)
ギシッ……と骨が軋んだ。
奥歯を噛んで悲鳴を呑み込む。
アシュレイの動揺を、男も見逃さなかった。
「あん時の女か!?」
(やっぱり!!)
アシュレイは、間髪入れずに剣を抜き払った。男は、すかさず応じる。
「ッ」
ガキンッと鋭い音を立て、男の長剣がアシュレイの大刀を受け止めた。
そのまま押し合う形で、踊り場で対峙する。
「ザイードか! そこを退けっ」
「いきなり、呼び捨てかよ。生意気な奴だ」
合わさった刃が、ギリギリと鍔迫り合いのまま拮抗する。
アシュレイは必死に押し返すが、力比べでは敵わない。
後方に退けるスペースがあるかどうか、ちら、と目を走らせた。
「余所見すんな。腹ががら空きだぜ」
「ぐふっ」
ほんの僅かな隙を、ザイードは見逃さなかった。鳩尾に膝がめり込む。
肺から空気が押し出された。
何とか防御の体勢を保ったが、一気に壁際へと追いつめられる。
「お前、とんでもなく大胆な動きをするくせに、妙なところで素人臭いのな。詰めが甘い」
交差した刃が鼻の先まで迫る。
「俺はな、見張りなんぞに立たされて気が立ってるんだ。この間いいようにしてくれた礼も含めてたっぷり仕返ししてやる」
「生憎……こっちは暇がない。とっとと退け!」
押されて体勢を崩す前に、足を払って懐に飛び込む。
よろめいたところに体当たりを食らって、ザイードは床に、強か尻を打ちつけた。
アシュレイはすかさずに踵を、ザイードの鳩尾にお見舞いしてやった。
「つったく、つくづく狂暴な女だ。そんなんじゃ嫁の貰い手もないだろ」
だが、すぐに悪手だとわかった。
足に肉を穿つ感触はなく、鉄板に蹴り込んだような鈍痛が走る。
帷子でも着込んでいたようだ。
「く……っ」
「けど俺も今日は完全防備だ。足癖の悪い女には、お仕置きが必要だな」
ザイードは上半身を起こすと、アシュレイの足首を掴んだ。
振りほどこうと抵抗を試みるが、そのまま引き倒される。
「い、つ……」
腰から床に叩きつけられ、一瞬息が詰まった。
「この前、言ったろう。お前は軽いって。捕まえちまえばこっちのもんだ」
「その相手にまんまとやられたの、忘れた……っ!?」
足を引き上げる一方で、ザイードは自身の足を、アシュレイの腹部を押さえつけるように搦めた。
得意気なザイードに、アシュレイは負けじと言い返す。
「あの時は油断してたが、今日は違う。一丁前に兵士を気取って敵地に乗り込んで来たんだ。覚悟はできてるんだろ」
覚悟なら、アルダシールに協力すると決めた時から、とうにしている。
けれど、足を掴まれたまま律義に返事をするのも癪なので、睨み付けるに留めた。
「アルダシール王子は人気者だな。こんなにひ弱な一般市民まで、兵士に志願させちまうんだから。そりゃ、半端な悪人はお呼びじゃねえや。……なあ、何て口説かれたんだよ」
ザイードは、不貞腐れたように愚痴を零しながら、掴んだ足首に力を込めた。
(痛っ……!)
ギシッ……と骨が軋んだ。
奥歯を噛んで悲鳴を呑み込む。
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