88 / 207
開戦
6
しおりを挟む
リックは、すぐに戻って来た。
すぐ後ろに壮年の男性を伴っている。
男性は体格が良く、それでいて余計な贅肉が一切ない。
荒事を生業としているようでいて、物腰は柔らかく品がある。
ギルフォードとよく似た雰囲気を持っている。
「お呼びと伺いましたが、何事でしょうか」
「これを見てくれ。将軍の見立てを聞きたい」
男はアシュレイたちに目礼をすると、テーブルを回り込み、ギルフォードの隣に進み出た。
アシュレイも立ち上がり、机を取り囲むスペースを空ける。
ソノラとジェニスはアシュレイの後ろから、地図を覗き込んだ。
「国民の安全を優先して区域を分断する場合、どこで線引きをするべきか。また避難民の誘導に人員を割くとして、人数と割り当てをどうするか。それらを総合して可能かどうか」
アルダシールが端的に説明すると、男は「むう」と唸った。
「ご存じの通り、今回の戦の肝は、城門の突破です。市民の反感も最小に抑えられるでしょうし、素晴らしい作戦です。是非採用したい。区分けはこのようにし、ここから外へ避難させてはいかがかと」
「城門をどう攻略するか、だな」
「はい。カロライン領から大砲を取り寄せてはいますが、2日は到着を待たねばなりません。その間に王妃の実家ロキサーヌ領からの援軍が到着する可能性もあります」
如何にすべきか。
将軍を始めアルダシールもギルフォードも押し黙った。突破方法を思考しているのだろう。
「破城槌はありますか?」
難航しているのを見て取って、アシュレイは口を挟む。
「ございますが、敵の抵抗を考えると充分な威力とは言えません」
「でも、相手が無抵抗ならどうでしょう。物理的に城門の破壊も不可能ですか?」
通常城門の守りには閂や丸太などで防御を強化している。
その上で、兵士が敵兵の侵入を防いでいる。
「無抵抗などと、そのような状況は現実には起こり得ません。あるとすればお伽噺だ」
アシュレイの意見に、将軍はあからさまに顔を顰めた。
「サヴォア将軍、この区域の分離を発案したのはその、アシュレイ王女だ。口を挟むからには、何か案があるんだろうな」
「勿論です。炮烙火矢を用いて、守備兵を無力化します」
アシュレイはアルダシールへ向けて大きく頷く。
知らぬうちに戻っている言葉遣いが、信頼を得ているようで嬉しい。
「炮烙火矢? 初めて聞く名前ですが、一体どのような武器なのですか」
「陶器製の容器に火薬を詰め、導火線に火を点けて投擲する兵器です」
「火薬を? しかし、城門を破壊するほどの火薬となると……」
「いいえ。城門の破壊はあくまで破城槌と兵士たちの人力で行います。自国同士の戦いですもの、避けられる殺生は避けるべきです」
アシュレイは将軍に向き直り、地図の一点を指し示し、作戦の全容を語った――
すぐ後ろに壮年の男性を伴っている。
男性は体格が良く、それでいて余計な贅肉が一切ない。
荒事を生業としているようでいて、物腰は柔らかく品がある。
ギルフォードとよく似た雰囲気を持っている。
「お呼びと伺いましたが、何事でしょうか」
「これを見てくれ。将軍の見立てを聞きたい」
男はアシュレイたちに目礼をすると、テーブルを回り込み、ギルフォードの隣に進み出た。
アシュレイも立ち上がり、机を取り囲むスペースを空ける。
ソノラとジェニスはアシュレイの後ろから、地図を覗き込んだ。
「国民の安全を優先して区域を分断する場合、どこで線引きをするべきか。また避難民の誘導に人員を割くとして、人数と割り当てをどうするか。それらを総合して可能かどうか」
アルダシールが端的に説明すると、男は「むう」と唸った。
「ご存じの通り、今回の戦の肝は、城門の突破です。市民の反感も最小に抑えられるでしょうし、素晴らしい作戦です。是非採用したい。区分けはこのようにし、ここから外へ避難させてはいかがかと」
「城門をどう攻略するか、だな」
「はい。カロライン領から大砲を取り寄せてはいますが、2日は到着を待たねばなりません。その間に王妃の実家ロキサーヌ領からの援軍が到着する可能性もあります」
如何にすべきか。
将軍を始めアルダシールもギルフォードも押し黙った。突破方法を思考しているのだろう。
「破城槌はありますか?」
難航しているのを見て取って、アシュレイは口を挟む。
「ございますが、敵の抵抗を考えると充分な威力とは言えません」
「でも、相手が無抵抗ならどうでしょう。物理的に城門の破壊も不可能ですか?」
通常城門の守りには閂や丸太などで防御を強化している。
その上で、兵士が敵兵の侵入を防いでいる。
「無抵抗などと、そのような状況は現実には起こり得ません。あるとすればお伽噺だ」
アシュレイの意見に、将軍はあからさまに顔を顰めた。
「サヴォア将軍、この区域の分離を発案したのはその、アシュレイ王女だ。口を挟むからには、何か案があるんだろうな」
「勿論です。炮烙火矢を用いて、守備兵を無力化します」
アシュレイはアルダシールへ向けて大きく頷く。
知らぬうちに戻っている言葉遣いが、信頼を得ているようで嬉しい。
「炮烙火矢? 初めて聞く名前ですが、一体どのような武器なのですか」
「陶器製の容器に火薬を詰め、導火線に火を点けて投擲する兵器です」
「火薬を? しかし、城門を破壊するほどの火薬となると……」
「いいえ。城門の破壊はあくまで破城槌と兵士たちの人力で行います。自国同士の戦いですもの、避けられる殺生は避けるべきです」
アシュレイは将軍に向き直り、地図の一点を指し示し、作戦の全容を語った――
64
お気に入りに追加
1,970
あなたにおすすめの小説
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!? 今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!
黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。
そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる