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開戦

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「馬を休ませて、私たちも休みましょう」

 アシュレイが馬の首筋を撫でてやると、ぐっしょりと掌が濡れる。馬も、アシュレイたちも汗だくだ。

「ありがとう。もうちょっとよ」

 手綱を引いて、徒歩で川へと移動する。

「さすがの馬も、限界だな。にしてもアウスレーゼの馬は優秀だ」

「そうね、私もビックリしたわ。もっとバテるかと思ったけれど……」

 マクシムの家で貸してもらった馬たちは、アウスレーゼ種の牡馬だった。

 荷を引く力には欠けるが、細身で足腰も丈夫なため、遠距離を駆けるのに適している。

 気を紛らわせるように、敢えて軽い口調で話すも、内心では焦りを感じていた。

 しかし、日暮れと共に、その焦りは希望に塗り替えられた。

「あれ?」

 川縁の一帯が、ぼんやりと明るい。

「人が集まってるみてえだな」

 ジェニスに言われて、アシュレイは耳を澄ます。

 喧騒とまではいかないが、確かに人の声が聞こえてきた。

「行ってみましょう!」

 3人は一気に駆け出して、川辺まで駆け寄った。

 そこで目にした光景にアシュレイたちは目を見張る。

(あれは……!?)

 そこは小さな野営地になっていた。

 天幕が張られ、火も焚かれている。

 兵や農民たちが、火を囲んで食べ物を口に運んでいた。

 ときおり何事かの雑談まで聞こえる。

 天幕の紋章を見て、どの陣営か確かめなくてはならない。

 しかし、それよりも先に、アシュレイの目に飛び込んだのこそ、アルダシールその人だった。

「アルダよ!! いたわ! アルダの陣営よ」 

 アルダシールは、煌々と燃え盛る焚き火の向こう側で、立ったまま何者かと話をしている。

 相手はアシュレイと同年代くらいか、少し上に見えた。

 アシュレイは嬉々として声を上げた。

 即座に駆け出すが、すぐに呼び止められる。

「おい、あんたたち、何者だ?」

 アシュレイたちに真っ先に気づいた農民が、警戒心も露わに近づいた。

「ああ、俺たちはべリングバリから来た者だ」

 ジェニスは物怖じせずに答えると、チラリとこちらを見た。

「誰か俺らの顔知ってる奴はいねえか? 俺はジェニスと言って、マクシムさんの代理なんだが。誰か上の人、呼んでくれよ」

 口元に手を添えて、わざと遠くに伝わるよう声を張り上げる。

 なるほど、まどろっこしい手順を飛ばす、良い読みだ。

 この男を無視して踏み込んで揉めるのも、今後を考えれば得策でない。

「マクシム様の代理だと!?」

 ジェニスがマクシムの名を口にすると、男は血相を変えた。

「あのマクシム様か!? わかった、聞いて来る!」

 男は仲間に声をかけ、急いで駆け出して行った。

 しかし、仲間の前に駆け付ける前に、会話の気配を察したのだろう。

 焚火の前に立つ、アルダシールの目が上がる。

 距離が離れているし、光源はあちらだ。
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