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行軍

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「え……、あ! ……アシュレイ様?」

 止めようにも、ロクに身体が動かない。

(いかんな、一刻も早く回復せねば。いや、これしきの傷……)

 撃たれたのは、右脇腹だ。

 普段通りに動こうとすると、首から足まで、連動して痛みが走る。

 そこで方針を変更した。

 だましだまし、左腕に体重を乗せるようにして、少しずつ重心をずらしていく。

「くっ、これ以上醜態を晒してなるものか」

 マクシムが歯を食いしばって、ようやく身体を起こしたところで、バタバタと足音が戻って来た。

 アシュレイだけでない。

 ジェニスとソノラも一緒だ。

「せっかく2人きりにしてやったのに、欲がねえなあ」

「そうも言ってらんねえだろ。一大事だもんよ」

「一大事だからこそ、燃えるってもんだろう? まあ、あの怪我じゃたいしたことはできねえだろうけど」

 ジェニスは丸まった地図を抱えていた。

 呑気な会話で、2人がとんでもない誤解を抱いているのだと思い出した。

 どうやらジェニスもソノラも、アシュレイをマクシムの恋人だと勘違いしている。

 戦闘前の負傷に加え、このような不敬な勘違いが耳に入りでもしたら、生きてアルダシールに合わせる顔がない。

「ごめんなさい、マクシムさん。お待たせしました。知っている範囲でいいので、進行の計画を教えてください」

 先にジェニスとソノラの誤解を解きたかったのに、最後に入室したアシュレイがキビキビとした口調で地図を広げる。

「マクシムさん、背中に枕でも入れましょう。ちっとご辛抱ください。先発隊がベラミを発ったとあっちゃあ先延ばしにしてらんねえ」

 ソノラがマクシムの背を支え、ベッドボードと背中の間に枕を入れる。腰が落ち着くように調整してくれた。

「マクシムさんは俺らの指揮者だが、今回のことで痛感した。いざって時に身動きが取れないこともある。全員でとはいかねえが、情報は俺たちにも共有してください」

 ベッドボードに背をもたせかけ、座るマクシムを中心にして、その周りをアシュレイたち3人が取り囲んだ。

 マクシムの膝の上に、北方が上に来るように地図が置かれた。

 有無を言わせぬ勢いだったが、マクシムは躊躇った。

 自分がどうするべきか、今すぐに決断をせねばならない。

 アルダシールからは、アシュレイを無事にオスローへ送り届けろと命じられている。

 今回の手紙でもわかる通り、アルダシールは軍を起こした今でも、命令を撤回する気はない。

 しかし、現実問題として、マクシムによる命令実行は不可能だ。

 すると命令を遂行するなら、誰かに依頼することになる。

 今であればソノラかジェニスが適任だが、2人はアルダシールの統治者としての支援している。

 国家の大事に命を捧げると誓ってくれているが、アシュレイを護送するためには戦場から離脱することになる。

 勘違いを解いて、アルダシールの大切な人だと説明しても、そんな要望を受け入れるだろうか。
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