王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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火蓋

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「何か動いたぞ。あそこ……!」

 馬上のザイードのほうが、侍従より目敏い。

 だがもう、アシュレイは指を引き金に掛けていた。

 照準を定めようにも、的は闇に溶けて所在が曖昧だ。そのために的を幾つにも分散した。

 記憶頼りの発射角で、引き金を引いた。





 ダーン





 甲高い銃声が闇夜を貫き、続いて荷台が弾けとんだ。

 連続して破裂する爆竹のようにけたたましい音が、漠々とした草原に響き渡る。

 一撃目の銃弾が火薬に引火し、次の薬包へ誘爆して荷台を吹き飛ばしたのだ。

 煙と爆風は、先の爆発の比ではない。

 初めて撃った短銃の反動も著しい。

(熱っ)

 危うく取り落としそうになりながら、尻餅をついた。

 なるほど、これでは連射は無理だ。

 千春の扱っていた銃より4世紀以前の代物だ。性能は格段に劣るらしい。

 知識にはあっても、実際の手応えに面食らう。

 未だ黒煙を吐き続ける短銃をホルスターに納め、爆風の収束と共に前進した。

 爆発に巻き込み2人を纏めて仕留める算段だったが、ザイードの位置取りが不十分だった気がする。

 今度は短刀の柄を握り締め、黒煙を切り裂き一気に接近した。

 ごほっ、と誰かの噎せ返る音が聞こえた。

 霞む視界に、荷台の残骸が映る。

 四方に砕け飛び、縁部分の木片の下で侍従らしき男が伏していた。

 頭部に幌の支柱が刺さっており、ほぼ即死だったとわかる。

「くっそ……ゲホッ。イーゴ……無事か?」

 煙の向こうで、ザイードの声がする。

 どの程度の損傷を与えられたかわからないが、不意打ちをするなら今しかない。

 声の位置は低い。落馬したのだろう。

 僅かな呼気を頼りに、短刀を一閃する。

 ザシュッという手応えと共に、悲鳴が聞こえた。

「ぐっ……てめぇの、仕業か……!」

 視界のない中でも、ザイードの反射は素晴らしかった。

 右腕を捕えたものの、斬撃は浅い。

 それでも、勢いのままザイードに体当たりする。

 ドサッと倒れ込む音がするや否や、2人は荷台の残骸の上を転げ回った。

 距離を詰めれば、銃は使えない。

「何だテメェは無言で、暗殺者かッ」

 敢えて軽口を叩くザイードに馬乗りになる形で、短刀を喉元目掛け振り下ろす。

「……クソッ。痛ぇな……っ」

 しかし、ザイードは負傷を覚悟で、残された左手で刀身ごと鍔を握り込んだ。

 刃の先端は、正に首の皮一枚を切り裂いたところから先へ進まない。

「しっかし、軽い。ガキか、それとも女か?」

「くッ……!」

「その声、女だな」

 余裕あり気な発言に、アシュレイは切歯した。

 2人は膠着したが、このままでは押し返されると踏んで、アシュレイは刃を引き上げる。

 そこへ機を狙っていたザイードが、ドンと腰を突き上げた。
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