69 / 223
火蓋
17
しおりを挟む
「何か動いたぞ。あそこ……!」
馬上のザイードのほうが、侍従より目敏い。
だがもう、アシュレイは指を引き金に掛けていた。
照準を定めようにも、的は闇に溶けて所在が曖昧だ。そのために的を幾つにも分散した。
記憶頼りの発射角で、引き金を引いた。
ダーン
甲高い銃声が闇夜を貫き、続いて荷台が弾けとんだ。
連続して破裂する爆竹のようにけたたましい音が、漠々とした草原に響き渡る。
一撃目の銃弾が火薬に引火し、次の薬包へ誘爆して荷台を吹き飛ばしたのだ。
煙と爆風は、先の爆発の比ではない。
初めて撃った短銃の反動も著しい。
(熱っ)
危うく取り落としそうになりながら、尻餅をついた。
なるほど、これでは連射は無理だ。
千春の扱っていた銃より4世紀以前の代物だ。性能は格段に劣るらしい。
知識にはあっても、実際の手応えに面食らう。
未だ黒煙を吐き続ける短銃をホルスターに納め、爆風の収束と共に前進した。
爆発に巻き込み2人を纏めて仕留める算段だったが、ザイードの位置取りが不十分だった気がする。
今度は短刀の柄を握り締め、黒煙を切り裂き一気に接近した。
ごほっ、と誰かの噎せ返る音が聞こえた。
霞む視界に、荷台の残骸が映る。
四方に砕け飛び、縁部分の木片の下で侍従らしき男が伏していた。
頭部に幌の支柱が刺さっており、ほぼ即死だったとわかる。
「くっそ……ゲホッ。イーゴ……無事か?」
煙の向こうで、ザイードの声がする。
どの程度の損傷を与えられたかわからないが、不意打ちをするなら今しかない。
声の位置は低い。落馬したのだろう。
僅かな呼気を頼りに、短刀を一閃する。
ザシュッという手応えと共に、悲鳴が聞こえた。
「ぐっ……てめぇの、仕業か……!」
視界のない中でも、ザイードの反射は素晴らしかった。
右腕を捕えたものの、斬撃は浅い。
それでも、勢いのままザイードに体当たりする。
ドサッと倒れ込む音がするや否や、2人は荷台の残骸の上を転げ回った。
距離を詰めれば、銃は使えない。
「何だテメェは無言で、暗殺者かッ」
敢えて軽口を叩くザイードに馬乗りになる形で、短刀を喉元目掛け振り下ろす。
「……クソッ。痛ぇな……っ」
しかし、ザイードは負傷を覚悟で、残された左手で刀身ごと鍔を握り込んだ。
刃の先端は、正に首の皮一枚を切り裂いたところから先へ進まない。
「しっかし、軽い。ガキか、それとも女か?」
「くッ……!」
「その声、女だな」
余裕あり気な発言に、アシュレイは切歯した。
2人は膠着したが、このままでは押し返されると踏んで、アシュレイは刃を引き上げる。
そこへ機を狙っていたザイードが、ドンと腰を突き上げた。
馬上のザイードのほうが、侍従より目敏い。
だがもう、アシュレイは指を引き金に掛けていた。
照準を定めようにも、的は闇に溶けて所在が曖昧だ。そのために的を幾つにも分散した。
記憶頼りの発射角で、引き金を引いた。
ダーン
甲高い銃声が闇夜を貫き、続いて荷台が弾けとんだ。
連続して破裂する爆竹のようにけたたましい音が、漠々とした草原に響き渡る。
一撃目の銃弾が火薬に引火し、次の薬包へ誘爆して荷台を吹き飛ばしたのだ。
煙と爆風は、先の爆発の比ではない。
初めて撃った短銃の反動も著しい。
(熱っ)
危うく取り落としそうになりながら、尻餅をついた。
なるほど、これでは連射は無理だ。
千春の扱っていた銃より4世紀以前の代物だ。性能は格段に劣るらしい。
知識にはあっても、実際の手応えに面食らう。
未だ黒煙を吐き続ける短銃をホルスターに納め、爆風の収束と共に前進した。
爆発に巻き込み2人を纏めて仕留める算段だったが、ザイードの位置取りが不十分だった気がする。
今度は短刀の柄を握り締め、黒煙を切り裂き一気に接近した。
ごほっ、と誰かの噎せ返る音が聞こえた。
霞む視界に、荷台の残骸が映る。
四方に砕け飛び、縁部分の木片の下で侍従らしき男が伏していた。
頭部に幌の支柱が刺さっており、ほぼ即死だったとわかる。
「くっそ……ゲホッ。イーゴ……無事か?」
煙の向こうで、ザイードの声がする。
どの程度の損傷を与えられたかわからないが、不意打ちをするなら今しかない。
声の位置は低い。落馬したのだろう。
僅かな呼気を頼りに、短刀を一閃する。
ザシュッという手応えと共に、悲鳴が聞こえた。
「ぐっ……てめぇの、仕業か……!」
視界のない中でも、ザイードの反射は素晴らしかった。
右腕を捕えたものの、斬撃は浅い。
それでも、勢いのままザイードに体当たりする。
ドサッと倒れ込む音がするや否や、2人は荷台の残骸の上を転げ回った。
距離を詰めれば、銃は使えない。
「何だテメェは無言で、暗殺者かッ」
敢えて軽口を叩くザイードに馬乗りになる形で、短刀を喉元目掛け振り下ろす。
「……クソッ。痛ぇな……っ」
しかし、ザイードは負傷を覚悟で、残された左手で刀身ごと鍔を握り込んだ。
刃の先端は、正に首の皮一枚を切り裂いたところから先へ進まない。
「しっかし、軽い。ガキか、それとも女か?」
「くッ……!」
「その声、女だな」
余裕あり気な発言に、アシュレイは切歯した。
2人は膠着したが、このままでは押し返されると踏んで、アシュレイは刃を引き上げる。
そこへ機を狙っていたザイードが、ドンと腰を突き上げた。
161
お気に入りに追加
2,554
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる