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火蓋
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爆風のあおりを受ける形で飛び退って、転がったその場で土にへばりつくように伏せて余波をやり過ごす。
やがて静寂が戻ると、アシュレイはよろよろと立ち上がり、定めていた地点へ移動する。
あらかたが爆風に吹き飛ばされたが、遺骸に燃え移った炎はまだくすぶり続けていた。
焦げた脂の嫌な匂いが漂って、顔を背けた。
一瞬罪悪の念に駆られそうになるが……まだだと瞑目する。
ここで躊躇えば、マクシムは助からない。
(……あと、2人)
あれだけの轟音が轟けば、2人とも……少なくとも1人は様子を見に戻らざるを得ない。
しかしアシュレイの予測に反して、騒々しいくらいの足音と共に2頭の馬が駆けつけた。
「今のは何の音だ」
「さぁ……爆薬でも持っていたんでしょうか」
「自爆したってのか? じゃあ、隠れていたのは王子じゃねえな。コルギ相手に、王子が自爆などするもんか」
馬上の1人、ザイードが舌打ちする。
2人は腰に得物を佩いてはいるが、手ぶらだった。
アシュレイは一つ、安堵する。マクシムはまだ捕らえられていない。
もう1人の従者が下馬して、燃え燻る遺骸に接近する。
(……もう少し。ザイードが荷台の影に入ったら……)
地にへばりつくアシュレイからは、人馬の影が朧な輪郭と共に見える。
射程距離は充分だったが、会話がほとんど聞き取れない。
会話の内容より2人を確実に仕留めるほうが優先事項だが、2人のほうが光源に近い。
有用な情報を漏らすかもしれないと、アシュレイは頭の位置を保ったまま匍匐し接近を試みる。
「じゃあ何者でしょう。その、べリングバリ卿が匿うほどの人物とは」
「わっかんねぇから戻ってきたんだろうが。見つからないのが気に入らねえが、どの道マクシムは腹に鉛玉を抱えてそう遠くへは逃げられない。しかし誘拐した王女を残して逃げるはずもないし、自爆といい、よくわからんな……」
ザイードは馬上でぶつぶつと呟き、自らの顎をしきりに撫でた。
「待ってください。燃えている死体は一つ……コルギだけです! 潜んでいた者は逃げ……いや、付近に潜んでいるかもしれません!」
侍従が火の傍にしゃがみ込み、声を上げた。
「何だと!?」
途端に、燃え差しに釘付けだった目が、カッと見開き、振り返る。
(くそっ、やむを得ない)
アシュレイは転瞬の間、思案したが、覚悟を決めて立ち上がった。
ザイードは未だ馬上にあり、効果は半減するだろう。
だが、2人を誘導しながら立ち会うほどの技量がアシュレイにはない。
身体を起こしてもう一度、込め矢を銃口に差し込んだ。
弾の装填を確認してから、目指す1点の延長線上へと駆けた。
やがて静寂が戻ると、アシュレイはよろよろと立ち上がり、定めていた地点へ移動する。
あらかたが爆風に吹き飛ばされたが、遺骸に燃え移った炎はまだくすぶり続けていた。
焦げた脂の嫌な匂いが漂って、顔を背けた。
一瞬罪悪の念に駆られそうになるが……まだだと瞑目する。
ここで躊躇えば、マクシムは助からない。
(……あと、2人)
あれだけの轟音が轟けば、2人とも……少なくとも1人は様子を見に戻らざるを得ない。
しかしアシュレイの予測に反して、騒々しいくらいの足音と共に2頭の馬が駆けつけた。
「今のは何の音だ」
「さぁ……爆薬でも持っていたんでしょうか」
「自爆したってのか? じゃあ、隠れていたのは王子じゃねえな。コルギ相手に、王子が自爆などするもんか」
馬上の1人、ザイードが舌打ちする。
2人は腰に得物を佩いてはいるが、手ぶらだった。
アシュレイは一つ、安堵する。マクシムはまだ捕らえられていない。
もう1人の従者が下馬して、燃え燻る遺骸に接近する。
(……もう少し。ザイードが荷台の影に入ったら……)
地にへばりつくアシュレイからは、人馬の影が朧な輪郭と共に見える。
射程距離は充分だったが、会話がほとんど聞き取れない。
会話の内容より2人を確実に仕留めるほうが優先事項だが、2人のほうが光源に近い。
有用な情報を漏らすかもしれないと、アシュレイは頭の位置を保ったまま匍匐し接近を試みる。
「じゃあ何者でしょう。その、べリングバリ卿が匿うほどの人物とは」
「わっかんねぇから戻ってきたんだろうが。見つからないのが気に入らねえが、どの道マクシムは腹に鉛玉を抱えてそう遠くへは逃げられない。しかし誘拐した王女を残して逃げるはずもないし、自爆といい、よくわからんな……」
ザイードは馬上でぶつぶつと呟き、自らの顎をしきりに撫でた。
「待ってください。燃えている死体は一つ……コルギだけです! 潜んでいた者は逃げ……いや、付近に潜んでいるかもしれません!」
侍従が火の傍にしゃがみ込み、声を上げた。
「何だと!?」
途端に、燃え差しに釘付けだった目が、カッと見開き、振り返る。
(くそっ、やむを得ない)
アシュレイは転瞬の間、思案したが、覚悟を決めて立ち上がった。
ザイードは未だ馬上にあり、効果は半減するだろう。
だが、2人を誘導しながら立ち会うほどの技量がアシュレイにはない。
身体を起こしてもう一度、込め矢を銃口に差し込んだ。
弾の装填を確認してから、目指す1点の延長線上へと駆けた。
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