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火蓋

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 自らの影を不気味に揺らめかせながら、荷台に接近する。

 ぐるりと一周すると、捲れて風になびく幌が気になったのだろう。

「隠れているのは、わかっているぞ。大人しく出てこい」

 騎士はアシュレイの待ち受ける一辺に、回り込んだ。

 敵が潜んでいるであろう、被せ布の隙間に剣先を突き付けながら。

 暗闇での戦闘は、灯りを持つ方が不利だ。

 自分の姿を相手に晒し、暗がりに潜む敵を見落としがちになる。

 突き出された剣先が眼球の数センチ先を掠めても、アシュレイは冷静だった。

 冷静でなければ、切り抜けられない。

 騎士は長いローブを纏っている。足音からは甲冑を身に着けているとは思えない。

 頭の上から爪先まで目を走らせて、狙いを定めた。

 瞬時に間合いを詰めて、一突きで仕留める。

 短剣を握る手に力が籠る。

「出てこないなら、こちらから行くぞ」

 騎士は意を決すると、払うようにして剣の切っ先を布に滑り込ませ、サッと捲り上げた。

 それと同時に、アシュレイは飛び出していた。

 鞘で剣先を払い、足裏で、胸を踏み込むように蹴り下ろす。

「ウッ」

 勢いで仰け反った咽喉へ、一気に刃を突き立てた。

 ドサッ

 騎士は声を上げる間もなく頽れた。

 松明は地に落ち、アシュレイのローブにも火が燃え移った。

 しかし怯まずに袷のベルトを解くと、倒れた騎士目掛けて打ち捨てる。

 その間から突き刺した短剣を引き抜いた。

 ローブにはみるみるうちに、黒い染みが広がる。

「ハァッ、ハッ」

 そこで急に息が上がって、アシュレイは今まで呼吸を止めていたことに気が付いた。

 どうやって堪えていたのか、急激に玉のような汗が噴き出して、握ったはずの短刀を取り落とした。

(まだ……あと、2人いる)

 マクシムはどこまで2人を惹き付けただろう。こちらの異変に気付いて戻って来れば良いのだが。

 アシュレイは短刀と松明を拾って、荷台を検分した。

 3本の長剣と、長銃と短銃が2丁ずつ。

 短銃を一丁手に取り、ホルスターを弾薬箱、短剣と共に腰に装着した。

 不格好ではあるが、構っていられない。

 残りの武器類は布で包んで、馬体に括りつけた。

「離れて、待ってて」

 馬がアシュレイの意図を理解するとも思わないが、荷台から切り離して声をかける。

 軽く尻を叩くと、意を汲んでくれたのか、そのままのろのろと歩き出した。

 薬包と弾薬を短銃に装填する。一掴みの薬包を荷台に放り投げた。

 短銃は17世紀頃のフリントロック式。

 充分な距離を取るが、離れ過ぎては狙いが定まらない。

 100メートル地点に目星をつけ、未だ燃え盛る炎に向かって薬包を投げ込んだ。



 ドーン



 眩い閃光と共に、引火した火薬が音を立てて弾ける。

 熱と煙が、辺り一面を包み込む。
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