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籠の外はどこ?
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奴隷をこの目で直接見たことはないが、どんなものかは前世からの知識で知っている。
人権を認められず、家畜同然の扱いを受ける身分だ。
(そう思えば、宮殿での籠の鳥でもまだ、恵まれていたの、かも……)
自分の晒されている危機の前に慄いていたがふと、そんな自嘲が頭をよぎる。
途端に身体の震えは治まった。
「私を……得るために、貴方が支払った対価は?」
アシュレイは覚らずのうちに呟いていた。
「それを聞いてどうする」
「私が甘かったのは認める。同じ過ちを犯さないためにも知っておきたいの。私を犠牲に大金を得るのなら、それくらい教えてくれてもいいでしょう」
「ふむ、一理あるか……」
アルダは興味深そうに、アシュレイを見返した。
アシュレイは既に冷静さを取り戻しつつあった。
元より、安全などと無縁の計画だった。
計画の時点で欠陥があったと聞いて取り乱したが、大丈夫。
大勢に影響はない。このまま最善を追求しよう。
アルダは不敵に見下ろしながら、指折り数えた。
「俺は常に複数人、情報屋を抱えている。これは今回のヤマだけに限らないから、四掛けくらいにして200ランダー。その他には酒が15樽でおよそ1万、馬は私物だからカウントから外すとして、俺自身の労力も除けば1万200といったところだな」
「あのお酒も、貴方が手配したの?」
「徒党を組んで、殺すのだけが芸じゃない」
ランダーは貨幣の単位だ。
王女であるアシュレイは実際に貨幣を扱う機会はなかったが、何にどれくらいの価値があるのか、目を皿のようにして観察した。
王室はアシュレイに碌な教育を施してくれなかったから、ほとんどが独学と見聞きしただけの知識だ。
中身が千春である点も、興味を強めた一因だ。
千春だった頃は、常に金銭的な困窮を極めていた。
国から補助が出るとはいえ、施設に入所している児童が何不自由なく暮らすには程遠い。
何かに追われるような息苦しさからどうにか逃れられたのは、自衛官として自立してからだった。
生活がある程度規制されている自衛隊でも快適に感じられるほど、それまでは不自由だった。
……まさか転生した後も、雁字搦めで不自由な生活を強いられるとは思いもよらなかった。
人の考える自由とは、いったい何なのかと哲学的な考えが頭を擡げなくもない。
そんな境遇のアシュレイが自分なりに解釈した価値の感覚は、円よりもドルに近い。
1万200ランダ。
日本円に換算すると、102万円ほどか。
「素晴らしい手腕ね。仲間に支払う報酬よりも支度金のほうが安上がりだったってわけ」
アルダはにやりと口の端を上げた。
「なるほどな。世間知らずなだけで、馬鹿ではないらしい」
盗賊団の頭領が、仲間に支払う報酬の相場がどの程度なのか分からない。
酒樽15樽の1万ランダが妥当なのかも判断がつかない。
しかし、アルダが選ぶからには、そちらに利があるに違いなかった。
人権を認められず、家畜同然の扱いを受ける身分だ。
(そう思えば、宮殿での籠の鳥でもまだ、恵まれていたの、かも……)
自分の晒されている危機の前に慄いていたがふと、そんな自嘲が頭をよぎる。
途端に身体の震えは治まった。
「私を……得るために、貴方が支払った対価は?」
アシュレイは覚らずのうちに呟いていた。
「それを聞いてどうする」
「私が甘かったのは認める。同じ過ちを犯さないためにも知っておきたいの。私を犠牲に大金を得るのなら、それくらい教えてくれてもいいでしょう」
「ふむ、一理あるか……」
アルダは興味深そうに、アシュレイを見返した。
アシュレイは既に冷静さを取り戻しつつあった。
元より、安全などと無縁の計画だった。
計画の時点で欠陥があったと聞いて取り乱したが、大丈夫。
大勢に影響はない。このまま最善を追求しよう。
アルダは不敵に見下ろしながら、指折り数えた。
「俺は常に複数人、情報屋を抱えている。これは今回のヤマだけに限らないから、四掛けくらいにして200ランダー。その他には酒が15樽でおよそ1万、馬は私物だからカウントから外すとして、俺自身の労力も除けば1万200といったところだな」
「あのお酒も、貴方が手配したの?」
「徒党を組んで、殺すのだけが芸じゃない」
ランダーは貨幣の単位だ。
王女であるアシュレイは実際に貨幣を扱う機会はなかったが、何にどれくらいの価値があるのか、目を皿のようにして観察した。
王室はアシュレイに碌な教育を施してくれなかったから、ほとんどが独学と見聞きしただけの知識だ。
中身が千春である点も、興味を強めた一因だ。
千春だった頃は、常に金銭的な困窮を極めていた。
国から補助が出るとはいえ、施設に入所している児童が何不自由なく暮らすには程遠い。
何かに追われるような息苦しさからどうにか逃れられたのは、自衛官として自立してからだった。
生活がある程度規制されている自衛隊でも快適に感じられるほど、それまでは不自由だった。
……まさか転生した後も、雁字搦めで不自由な生活を強いられるとは思いもよらなかった。
人の考える自由とは、いったい何なのかと哲学的な考えが頭を擡げなくもない。
そんな境遇のアシュレイが自分なりに解釈した価値の感覚は、円よりもドルに近い。
1万200ランダ。
日本円に換算すると、102万円ほどか。
「素晴らしい手腕ね。仲間に支払う報酬よりも支度金のほうが安上がりだったってわけ」
アルダはにやりと口の端を上げた。
「なるほどな。世間知らずなだけで、馬鹿ではないらしい」
盗賊団の頭領が、仲間に支払う報酬の相場がどの程度なのか分からない。
酒樽15樽の1万ランダが妥当なのかも判断がつかない。
しかし、アルダが選ぶからには、そちらに利があるに違いなかった。
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