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籠の外はどこ?

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 シャルの問いには答えず、アミールに詰め寄る。

「だって……浅ましい嘘をついて逃げる気だと思ったから……奴隷の分際であるじを謀ろうとするから」

「主だって? ここの主は俺だ。お前はいつから俺のものを勝手に扱えるほど偉くなったんだ?」

 金色の瞳の男が、アミールを恫喝し、ワンピースの胸元を掴み上げた。

「あ、ごめんなさい……」

 途端にアミールの瞳に涙が膨れ上がった。

(やっぱり、昨日の男だわ)

 近くから見て確信する。この男、アルダが昨晩アシュレイを攫った人物で間違いない。

 アシュレイは自分の頭が存外冷静であることにほっとした。

 今までに冷遇される場面は多くあったが、王女という立場から直接暴力をふるう人間はいなかったので、少々動揺してしまった。

「私は大丈夫ですから、その人を離して」

「気丈だな。頬が赤くなっている」

「男性が女性を嬲る姿は見たくないの」

 赤くなっている、と指摘されて、ようやくジンジンとした顔の疼きを実感した。

 3度も叩かれたシーンを思い出すと、アミールへの怒りがふつふつとわき上がってくる。

「この縄を解いてくれればいいだけよ。それと、誤解のないように念を押すけれど、私は貴方のものではないわ」

 しかし、もう会うこともない女に、これ以上怒りを募らせたところで意味はない。

「その怪我に免じて手の縄は外してやろう。だが、誤解をしているのはお前のほうだ」

 突き出した腕の縄を切るため、アルダは腰元から小刀を取り出した。

 小刀は、その鞘にも柄にも宝飾品が施されており、いかにも高価そうだ。

 アシュレイの前に跪き、丁寧な動作で手首の間の縄の部分に刃を立てる。

 縄の半ばまで刃が食い込んだところで力を籠め、ぐいっと残りを切断した。

 決してアシュレイを傷付けないようにと、配慮されている動きに思える。

 半日ぶりに手が自由になってほっとしたのも束の間。

 すかさず右手首をアルダが掴んだ。

 立ち上がった拍子にぐっと引き寄せられて目が合う。

 昨晩よりもはっきり見えるアルダのは、想像していたよりずっと美しい若者だった。

 年の頃は20歳くらいだろうか。

 浅黒い肌は陽に焼けたためか、生来のものか。

 この国の多くの人がそうであるような漆黒の髪が波打ち、項の辺りでまとめられている。

 切れ長の瞳は特徴的な黄金色が、陽の光に当たって輝きを増していた。

 見た目以上に貫禄があるのは、所作に落ち着きがあるせいだろうか。

「お前は俺が盗み出した。つまりお前は俺のものだ」

「え?」

 自分を盗み出した男の正体に見惚れていたからか、アシュレイは一瞬反応が遅れた。

「ああ、貴方、誰かに頼まれて私を連れ出したんでしょう? あれね、本当の依頼主は私なの。私は自分を逃がすために、貴方たちを雇ったのよ」

 慌てて取り繕うアシュレイを前に、左右大きさの揃ったアンバーみたいな目が面白そうにきらりと光る。

「違うな」

「え?」

 今度はアシュレイのほうが意表を突かれた。
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