7 / 138
政略結婚!?
7
しおりを挟む
「頭の後ろで縛れ」
(随分な念の入れようね……)
アシュレイの拘束に両手を使っては、その間に抵抗される想定なのか。
訝しむ気持ちで男をねめつけつつ、刃が皮膚に当たらぬようゆっくりと体を起こす。
男は刃を突き付けたまま、アシュレイに合わせて上体を上げる。
起き上がると被っていたフードがずれて、金色の光が夜闇に浮かんだ。
アシュレイは思わず、息を吞む。
黄金色は男の瞳の色だった。
落ちた影が瞳を縁取る睫毛の豊かさを物語っている。その下には金色をした猫のように優美な瞳がある。
だが、瞳には獰猛な獣の光が宿っており、アシュレイは魅入られ、同時に慄いた。
(何て鋭い瞳。まるでライオンみたい……)
目を逸らせない。
ベッドについた指先が震え始め、ドキドキと心臓が動悸を早めた。胸が苦しくなるような沈黙だ。
「早くしろ」
男のほうが焦れて、目を襤褸切れに落とすと、やっと、アシュレイも呼吸を再開した。
息を呑んだついでに、止めてしまったらしい。
ふーっと息を吐き、覚悟を決めて自らの口を布で覆った。
自分の行動なので、それなりの加減が可能なのは有難い。
アシュレイが布を巻き終えるや否や、男は目にも止まらぬ手捌きで、アシュレイの手首を拘束した。
「……っ!」
そこまでしなくても。そう思ってももう声が出せない。
流れる動作でアシュレイの胴を攫うと、窓の外へひらりと身を投げ出した。
全身を浮遊感が包む。
なのにほとんど恐怖を感じないのは、動作の全てが安定しているからだ。
胴に回された腕は筋骨隆々として、寸分も緩まない。
引き寄せられて、背が密着した胸板からも、鍛え上げられた体躯が伝わる。
男は侵入に使ったであろうロープをするすると伝い降り、直下に置いてあった樽の影に身を隠した。
宿の周囲には等間隔の見張りが立つはずだった。
だが、村長の振る舞い酒の影響か、その間隔はまばらになっている。
アシュレイから見える松明の灯りは2つ。
使用していたのが角部屋だったので、直ぐ背後の向こう側には、まだ複数いるかもしれない。
夜の闇は未だ深い。樽の影にいる限りは、見咎められることもあるまい。
しかし、ずっとここに留まっていればいつかは見つかる。
どうするつもりなのかと、アシュレイは気を揉んだ。
抵抗する気など、微塵もない。
アシュレイが自らの依頼で、アシュレイ自身を誘拐させている。
対価は母から譲り受けた金の櫛だった。
母が嫁入り道具として持参した貴重なものだと聞いている。
母セディナだけはアシュレイを宝玉のように愛し、慈しんでくれた。
だからアシュレイは前世も今世も含めて、たった一人の母を大切に想っていた。
大好きな女性からもらった大切な宝だったから、アシュレイは全力で隠し通した。
キューベルルに知られれば、何やかやと理由をつけて巻き上げられていただろう。
(随分な念の入れようね……)
アシュレイの拘束に両手を使っては、その間に抵抗される想定なのか。
訝しむ気持ちで男をねめつけつつ、刃が皮膚に当たらぬようゆっくりと体を起こす。
男は刃を突き付けたまま、アシュレイに合わせて上体を上げる。
起き上がると被っていたフードがずれて、金色の光が夜闇に浮かんだ。
アシュレイは思わず、息を吞む。
黄金色は男の瞳の色だった。
落ちた影が瞳を縁取る睫毛の豊かさを物語っている。その下には金色をした猫のように優美な瞳がある。
だが、瞳には獰猛な獣の光が宿っており、アシュレイは魅入られ、同時に慄いた。
(何て鋭い瞳。まるでライオンみたい……)
目を逸らせない。
ベッドについた指先が震え始め、ドキドキと心臓が動悸を早めた。胸が苦しくなるような沈黙だ。
「早くしろ」
男のほうが焦れて、目を襤褸切れに落とすと、やっと、アシュレイも呼吸を再開した。
息を呑んだついでに、止めてしまったらしい。
ふーっと息を吐き、覚悟を決めて自らの口を布で覆った。
自分の行動なので、それなりの加減が可能なのは有難い。
アシュレイが布を巻き終えるや否や、男は目にも止まらぬ手捌きで、アシュレイの手首を拘束した。
「……っ!」
そこまでしなくても。そう思ってももう声が出せない。
流れる動作でアシュレイの胴を攫うと、窓の外へひらりと身を投げ出した。
全身を浮遊感が包む。
なのにほとんど恐怖を感じないのは、動作の全てが安定しているからだ。
胴に回された腕は筋骨隆々として、寸分も緩まない。
引き寄せられて、背が密着した胸板からも、鍛え上げられた体躯が伝わる。
男は侵入に使ったであろうロープをするすると伝い降り、直下に置いてあった樽の影に身を隠した。
宿の周囲には等間隔の見張りが立つはずだった。
だが、村長の振る舞い酒の影響か、その間隔はまばらになっている。
アシュレイから見える松明の灯りは2つ。
使用していたのが角部屋だったので、直ぐ背後の向こう側には、まだ複数いるかもしれない。
夜の闇は未だ深い。樽の影にいる限りは、見咎められることもあるまい。
しかし、ずっとここに留まっていればいつかは見つかる。
どうするつもりなのかと、アシュレイは気を揉んだ。
抵抗する気など、微塵もない。
アシュレイが自らの依頼で、アシュレイ自身を誘拐させている。
対価は母から譲り受けた金の櫛だった。
母が嫁入り道具として持参した貴重なものだと聞いている。
母セディナだけはアシュレイを宝玉のように愛し、慈しんでくれた。
だからアシュレイは前世も今世も含めて、たった一人の母を大切に想っていた。
大好きな女性からもらった大切な宝だったから、アシュレイは全力で隠し通した。
キューベルルに知られれば、何やかやと理由をつけて巻き上げられていただろう。
応援ありがとうございます!
15
お気に入りに追加
2,139
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる