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政略結婚!?

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 キューベルルは壁際に控えている近衛兵に、指示を出す。

「拝命しかと、賜りました。では、失礼致します」

 引き出される前に、自分から、礼を取って退室する。

「……アシュレイ様。お部屋までお送りします」

 扉が閉まると、後ろからついて来た近衛師団、3番隊長のキャヴス・ダリウスが痛まし気に眉をひそめた。

 キャヴスは母と同じ、オスロ―出身の下級貴族だった。

 彼は卓出した剣技と、秀でた美貌から近衛師団に抜擢された。

 ……オスロ―は北方にあるため、色素の薄い民が多い。

 キャヴスも例に漏れず、戦闘職種には珍しい白磁のような肌に、深い湖のような紺碧の瞳を持っている。

 舞台役者のような甘いマスクは、宮中の女性の人気を欲しいままにしていた。

 キューベルルは母には嫉妬をしていたくせに、キャヴスの容姿は気に入っていたようだ。

 キャヴスを師団長へ推挙したのは、キューベルルだと聞いている。

 キャヴスは私情を挟まず、献身的に王家に仕えていたが、一方では同族の血を引くアシュレイを気に掛けてくれていた。

 味方はほぼ皆無と言えるこの宮中で、親身になって接してくれる唯一の存在だ。

「何のお力にもなれぬ我が身の、不甲斐なさをお許しください……!」

「ありがとうございます、キャヴス隊長。……どうぞ、気になさらないで」

 キャヴスがガラス細工のように綺麗な顔を歪めて、心底口惜しそうな嘆きを零した。

 それだけでささくれ立った心が癒される気がした。

 だが……。

 もう、それだけでは満足しない。

 長いこと待って、ようやく巡ってきた千載一遇のチャンスを、逃すわけにはいかない。

 そう、アシュレイはずっと、この時を待っていた。

 息苦しい宮中の外に出られるその日を。

 アシュレイは離宮へと続く渡り廊下をさっと見渡し、人気がないのを見て取ってから、改めてキャヴスを振り返った。

「でも、もし……」

 大きく息を吸って、儚げな溜息と共に声をこぼす。

 アシュレイは自覚していた。

 この姿形は、傾国の美女と言って差し支えないほど、恵まれている。

 唇は花弁のように可憐だし、声は琴線を奏でるように滑らかだ。

 あの凶悪な継母がアシュレイを殺すまでに至らなかったのも、半分はこの美貌のお陰だったとも言える。

 目障りなりに、政治の役に立つと考えたのだろう。

 けど千春だった頃を考えると、ちょっと……いや、だいぶ、この“愛らしい声音”を使うことには罪悪感がある。

 何だか男性を騙しているような気がするからだ。

 千春は女性の割にかなりの長身で、女らしさとは無縁の体形だった。

「キャヴス隊長……一つだけ、お願いしたいことがありますの。どうかお聞き届け下さる……?」

 でも、今はここぞの時だ。

 持っているものはフルに使わなければ。

 ここでキャヴスの協力が得られるかどうか。それが全ての鍵を握っていると言っても過言ではない。

「お聞き届け下さるなら……一つだけ、お願いしたいことがありますの」

 普段なら、絶対にやらない。

 しっとりとした柔らかい掌で、きゅっとキャヴスの手を握る。

「ア、アシュレイ様……!? 何なりとお申し付けください」

(ごめんね、キャヴス)

 断らせないダメ押しに行為に心で詫びながら、アシュレイは密かに温めていた計画をキャヴスに持ち掛けた――。
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