夏姫の忍

きぬがやあきら

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種火

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 だが、跳ねっ返りとわがままな子供衆が大人しく控えているはずもない。

 五人は夏をしんがりに、勝手に戻って来た。

「三郎と四郎は大丈夫?」

「落っこちたの?」

「おーい! 三郎、生きてるー?」

 各々自由に口走りながら、三郎と四郎二人を憂慮し、集まった。

「二人とも無事だ。だがもう帰ったほうが良いな。怪我は怪我だ」

「ええっ、おいらはまだ……あ、痛た」

 友人の前で恥ずかしいのか、三郎が慌てて体を起こす。

「怪我は最初が肝心だ。家まで送ってやるから、今日は大人しくしておれ」

 他人前ひとまえで張れる意地は元気な証拠だ。

 だが捻ったのが足首なら、動かさぬほうが良い。

 抱いてやろうと思い立ち、一番遅く辿り着いた夏に四郎を託した。

「お夏様、四郎をお願いします」

「む? 儂が、抱いて良いのか? 三郎は?」

「三郎は私が抱えて参ります。足を痛めたようなので」

 夏は、嬉しそうに頷いた。

 不慣れな手つきながらも、大切に抱え、抱き寄せる。

「おお、よし。この姉様が抱いて行こうぞ。なに、不安に思わずとも良い。そなたの兄様も一緒じゃ。ふふ、涙と洟水で面が水だらけじゃ」

 夏があやすと、四郎は少しだけ泣き声を弱めた。

「おいらは、いいよ! 赤ん坊じゃあるまいし、抱っこなんて」

「ならば、負ぶされ。怪我人は別格だ」

 花月は背を向けてしゃがみ込んだ。しばらく三郎は、もたもたとしていた。

 だが、突如どさっと花月の背に負ぶさる。

「おいら、重たいよ」

 気恥ずかしいのか、外方を向いている。

「なに、大した重さでない。行くぞ」

 言葉通り、花月にとって三郎は重いうちに入らない。

「お前の家は、どこだ」

 軽々立ち上がると、三郎は少し遠慮がちに家への道筋を示した。

 皆、同じ村の子供だ。子供衆も全員付き添って、兄弟を家へ送り届けた。

 三郎の家は五軒並びの古びた長屋だった。

 戸の前で花月が家人に声を掛けるより早く、静と太右衛門が家に駆け込んで行った。

「じっちゃん、三郎が怪我をしたよ! 岩から落っこちた!」

「お兄さんとお姉さんが助けてくれたの」

 奥から間延びした嗄れ声が聞こえて来る。

 中には老爺一人の様子だ。父母は仕事に出ていた。

「ねえ、おいら、もう大丈夫だよ」

 負われて帰った姿を見せたくないのか、三郎は素早く花月の肩を叩いた。

 だが、降ろしてやっても、当然すんなりとは動けない。

 左の足を庇いながらだから、のんびりした動作になる。

 老爺や静たちがすぐに出てこないところを見ると、老爺も壮健とは言えないのだろう。

「ご父兄は不在なのじゃな」

「私、いる場所を知っているから、三郎のおっ母さんを呼んでくるよ」

 夏の言葉に、鈴が応える。静が屋内へ入っているため、自分の役割と踏んだのか。

「あっ、いいよ。おいらは大丈夫だから!」

 三郎が呼び止めるが、鈴はお構いなしだ。ついでに佑太も鈴に従った。

「心意気は頼もしいが、大丈夫ではなさそうじゃ。母上殿にいてもらったほうが、心強かろう」

 夏の意見はもっともだ。だが、三郎の心情も得心できる。

 自分の過ちで家族に面倒を掛けたくないのだ。

「まあ、今日は帰って来てもらうのが一番だ。だが、早く動きたいのなら、ちょうど良いものがある」

 膏薬を塗り、添え木をすれば、かなり痛みは和らぐはずだ。怪我も長引きにくい。

「だが生憎なことに俺の荷は連れが持って町へ行ってしまった。だから、取りに行って来なくては」

「安芸の元へ行くのか? ならば儂はここへ残って、ご母堂を待つといたそうか」

 夏の応答は計画の範囲だ。四郎と離れ難そうな顔をしている。

「それはなりません。いかなる場所でも、お夏様を一人で残しては、私が旦那様に叱られます。一緒に参りましょう」

「では四郎は、いかがいたす。三郎があやすのは難儀じゃろう」

「それなら剴切な者がおります。お静に頼みましょう」

 花月が静を呼ぶと、こちらも想定通り、快く引き受けた。
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