30 / 44
姫と忍
13
しおりを挟む
恐れる必要は全くないので、問題はない。
だが、これ以上ややこしくしないでもらいたいので、口早に囁く。
「お夏様、下郎と口を利いてはなりませぬ」
「下郎とは、馬鹿にしてくれるな、優男。これでも、粋がった口を聞いていられるか」
一味が三人、木陰からぬうっと影を伸ばした。
どの男も最初に出て来た男と似たり寄ったりの風貌で、金品欲しさに乱暴を働く一味だと明らかになった。
後方から現れた三人は、各々手に光物を携えている。
しかし、武装の稚拙さに、内心で花月は鼻白んだ。
一番後方の男の得物は、刃毀れも甚だしい鎌だ。
こんな体で風魔に挑もうとは笑わせる。もっとも奴らは、こちらを頼りない旅の一味と踏んでいるだろうが。
辺りの気配は、花月の領解する限りこの四人で全てだ。
「さあ、命が惜しかったらその荷と手持ちの金をそっくり置いていきな」
野伏は得意顔だ。こちらは、男一人の三人連れ、侮られて当然だ。
「ふむ。四人で連れは全員か? 儂らから金子を奪って、何に使うつもりなのじゃ」
「何をって? はあ? そりゃ……」
「そりゃ、食い物だ! 腹いっぱい、米を食うんだ!」
「馬鹿野郎、肉だよ! 奴ら良い馬を持ってやがる」
「やめろ、馬は金に換えるんだろう。俺は酒、酒が飲みてえ!」
夏の素朴な問いに、新たに顔を出した三人の一味が、別々の要求を捲し立てる。
どうでも良い主張に、花月は頭が重くなった。
こんな連中にかかずらわっては、単に時の無駄だ。
抛擲して立ち去りたいくらいだが、夏はそうでもないようだ。
「なるほど。食い詰めて悪党に身を落としたのか。のう、安芸よ。そなた先ほど人足に駄賃を渡しておったな。手持ちの金子に余裕はあるか」
「はあ、旦那様には旅支度に過分なほど用立てて頂きました故……て、お夏様、まさかあいつらに恵んでやるおつもりですか?」
「ならば渡せるだけ渡してやっておくれ。お主らがひもじい思いをせねば良い。儂のことなら構う必要はない」
「ええっ、嫌ですよぉ! 物乞いならいざ知らず、何故このように無礼で、むっさい男どもに」
安芸はあからさまに顔をしかめて、懐を押さえた。そこに財布をしまっているようだ。
安芸は端から一銭たりと渡すつもりはない。
花月も同様だ。
だが、世間知らずの姫君は、真摯な瞳で安芸を見つめる。
「北条の領地で、飢えた民を放ってはおけぬ」
思い違いながら、心構えは天晴だ。血は争えぬというか、娘も十分に人が善い。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。余裕ではなく、全部すっかり寄こすんだよ。馬も、荷もだ。こいつが見えねえのか」
安芸が返答に迷っていると、野伏が嘲弄した。後ろの相棒が刃の毀れた大刀を投げて渡す。
「全部はやれぬ。この二人は儂の大切な供じゃ。儂にはこの者らも守る責任がある。馬もやらぬ。だが、できうる限り応えよう」
「何だとう!?」
一番先頭の毛だらけが、怯まない夏に凄んだ。手にした大刀を振り上げ、威喝する。
そこまでされては、花月も黙っていられない。
だが、これ以上ややこしくしないでもらいたいので、口早に囁く。
「お夏様、下郎と口を利いてはなりませぬ」
「下郎とは、馬鹿にしてくれるな、優男。これでも、粋がった口を聞いていられるか」
一味が三人、木陰からぬうっと影を伸ばした。
どの男も最初に出て来た男と似たり寄ったりの風貌で、金品欲しさに乱暴を働く一味だと明らかになった。
後方から現れた三人は、各々手に光物を携えている。
しかし、武装の稚拙さに、内心で花月は鼻白んだ。
一番後方の男の得物は、刃毀れも甚だしい鎌だ。
こんな体で風魔に挑もうとは笑わせる。もっとも奴らは、こちらを頼りない旅の一味と踏んでいるだろうが。
辺りの気配は、花月の領解する限りこの四人で全てだ。
「さあ、命が惜しかったらその荷と手持ちの金をそっくり置いていきな」
野伏は得意顔だ。こちらは、男一人の三人連れ、侮られて当然だ。
「ふむ。四人で連れは全員か? 儂らから金子を奪って、何に使うつもりなのじゃ」
「何をって? はあ? そりゃ……」
「そりゃ、食い物だ! 腹いっぱい、米を食うんだ!」
「馬鹿野郎、肉だよ! 奴ら良い馬を持ってやがる」
「やめろ、馬は金に換えるんだろう。俺は酒、酒が飲みてえ!」
夏の素朴な問いに、新たに顔を出した三人の一味が、別々の要求を捲し立てる。
どうでも良い主張に、花月は頭が重くなった。
こんな連中にかかずらわっては、単に時の無駄だ。
抛擲して立ち去りたいくらいだが、夏はそうでもないようだ。
「なるほど。食い詰めて悪党に身を落としたのか。のう、安芸よ。そなた先ほど人足に駄賃を渡しておったな。手持ちの金子に余裕はあるか」
「はあ、旦那様には旅支度に過分なほど用立てて頂きました故……て、お夏様、まさかあいつらに恵んでやるおつもりですか?」
「ならば渡せるだけ渡してやっておくれ。お主らがひもじい思いをせねば良い。儂のことなら構う必要はない」
「ええっ、嫌ですよぉ! 物乞いならいざ知らず、何故このように無礼で、むっさい男どもに」
安芸はあからさまに顔をしかめて、懐を押さえた。そこに財布をしまっているようだ。
安芸は端から一銭たりと渡すつもりはない。
花月も同様だ。
だが、世間知らずの姫君は、真摯な瞳で安芸を見つめる。
「北条の領地で、飢えた民を放ってはおけぬ」
思い違いながら、心構えは天晴だ。血は争えぬというか、娘も十分に人が善い。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。余裕ではなく、全部すっかり寄こすんだよ。馬も、荷もだ。こいつが見えねえのか」
安芸が返答に迷っていると、野伏が嘲弄した。後ろの相棒が刃の毀れた大刀を投げて渡す。
「全部はやれぬ。この二人は儂の大切な供じゃ。儂にはこの者らも守る責任がある。馬もやらぬ。だが、できうる限り応えよう」
「何だとう!?」
一番先頭の毛だらけが、怯まない夏に凄んだ。手にした大刀を振り上げ、威喝する。
そこまでされては、花月も黙っていられない。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
天下布武~必勝!桶狭間
斑鳩陽菜
歴史・時代
永禄三年五月――、駿河国および遠江国を領する今川義元との緊張が続く尾張国。ついに尾張まで攻め上ってきたという報せに、若き織田信長は出陣する。世にいう桶狭間の戦いである。その軍勢の中に、信長と乳兄弟である重臣・池田恒興もいた。必勝祈願のために、熱田神宮参詣する織田軍。これは、若き織田信長が池田恒興と歩む、桶狭間の戦いに至るストーリーである
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる