上 下
140 / 140
聖女の祝福

しおりを挟む
 頭の天辺から爪先まで、何度眺めても王子様然としていて、溜息の出そうな凛々しさだ。

「確かに色々ありましたけど……、そのお陰で、普通に選定された聖女にはできない経験がたくさんできました。その分、より深く、ルーカス様と繋がれた気がするんです」

 だからこうなった今では、必要な道程だったのでは、とさえ考える。

 オリヴィエは半ば見惚れながら、自分にも言い聞かせるように説いた。

 ルーカスはそれでも不満なのか、考え込むように沈黙し……おもむろに口を開く。

「妙なことを言うな。俺とオリヴィエはまだ繋がっていない」

「えっ?」

 オリヴィエは困惑した。

 この10年余り、2人は言葉にできずとも互いを想い合っていた。

 その上聖騎士団では、苦楽を共にし、強い絆を培った……と、オリヴィエは信じていた。

 ルーカスの想いは違うのか?

 独りよがりの感傷だったのか、と不安に襲われる。

 ルーカスはより深く腰を掛け直すと、脚を組んだ。

 綺麗に中心線の伸びたスラックスが、長い足を強調する。

 組んだ膝の上に肘を着いて顎を乗せる。

 勿体ぶった予備動作に、どんな答えがもたらされるのかと、固唾を飲んで見守ると、ニヤリと口角がつり上げられた。

「繋がるのは、今晩の楽しみだ。どこまで深く繋がれるかは……オリヴィエの頑張り次第かな」

 ルーカスの比喩に、オリヴィエの頬はカッと熱くなる。

 言わんとしている意味が、考えなくても浮かんでしまった。

「ちょっ……ルーカスったら! 突然何を……!」

「ふっ、耳まで赤くして、わかってるじゃないか。……澄まし顔よりそのほうが、オリヴィエらしくていい。可愛いな」

 ルーカスは意地悪そうに瞳を眇めてくっくと笑った。

 確かに、今日は大切な日だからと気を張り詰めていた。王太子の妃に相応しく、聖女の名に恥じないようにと。

「ルーカスだって、そんな完璧な王子様然とした姿で、変な話題に繋げないでよ……!」

「王子は品行方正でなければならない決まりはない。それともお前が結婚したのは、王太子として公務をこなす姿の俺だけか? 知っているだろう? 俺は口も悪いし、乱暴でひねくれ者だ」

 言葉とは裏腹に、ルーカスは足を戻すと、ゆったりとした動作で両手を広げた。

 あんな風に初夜を仄めかされると、素直に飛び込んでいいものかと迷いが生じる。

 けれどやっぱり、誘惑には抗えない。

 ルーカスの胸の温かさと仄かな香りは、何物にも代え難い蠱惑だった。

「残念だけど……どんなルーカスも好きよ。……意地悪な貴方も」

 胸に額を当てる直前で、オリヴィエはルーカスを見上げ、じとっと睨む。

「ほう。では、覚悟しておくことだな」

 ルーカスはオリヴィエの腰に手を回すと、力強く引き寄せた。膝の上に抱き上げる。

「もう! まだ言うのね。本当に意地悪なんだから」

 オリヴィエが照れれば照れるだけ、ルーカスは喜ぶとわかっている。

 わかっていても、羞恥は簡単には治まらなかった。

 変わらずくすくすと笑い声を立てながら、ルーカスは耳元に口づけた。

「厄介な夫で悪いが、末永くよろしく頼むよ」







*おまけ* Fin
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

処理中です...