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聖女の祝福

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 また、従来の聖女よりも遥かに強靭な肉体と体力を備えているため、スケジュールを多少タイトなものにアレンジしても難なくこなせた。

 そのため、妃教育は予定よりも早く終了したのだった。

「ルーカス殿下! 聖女様、おめでとうございます!!」

「ありがとう」

「我がアルディアに栄光あれ!」

 成婚のパレードの道中、沿道から上がる歓声に、馬車の窓から手を振って応える。

 お祝いで馬車を見送る列の中から一人の少女が、花束を抱えて駆け寄った。

「おめでとうございます、聖女様! どうか末永く、王子様と幸せに」

 白のアリッサムを受け取ると、甘い香りが漂った。

「ありがとう。とっても嬉しいわ。皆様にアイリスのご加護がありますように」

 オリヴィエは少女の頬を撫でる。

 少女は歩みを止め、一定の速度で進む馬車を見送ってくれた。

 もう間もなく、城門へ帰還する。

「オリヴィエ、もういいよ」

 ルーカスに促され、オリヴィエは窓から身を引いた。

 もう一度だけ外へと手を振って、座席に腰かける。

「これで……恩赦が実施できますね」

 ふう、と一息つくと、瞬く間に過ぎ去った一連の騒動がふっと思い起こされた。

 ルーカスとの出会い、聖女の選定式、聖騎士団での生活……。

 思い起こせばあっという間だ。

 これまでの結婚準備期間でも、瞬く間に時が過ぎる中、聖女偽装事件の全容が、徐々に明かされて行った。

 総ての発端は5年の昔、イレーネ・ロドリーゴからの提案から始まった。

 ”私の家は代々歴史の研究に力を注いでいて、聖女と王族の関係に詳しい。私に協力すれば聖女を身内に抱え、王族と縁を結ぶ方法を教えてあげる”

 家系を遡れば、確かにロドリーゴ家は学者を多く輩出していた一族だった。

 ただし、私的に研究を行うための費用は全て私的な財産で賄われる。

 代々の当主は研究者脳で、領地の経営はそっちのけで研究に没頭した。

 希少な書物と引き換えに金貨を失い、天井に届くほどの書物が詰まる、古びた邸だけが受け継がれた。

 イレーネの父ラテル・ロドリーゴの代まで残った財産は、ほぼそれだけだったらしい。

 それでも父親は家族の生活を犠牲にして、研究に没頭した。

 テーマは『聖女の証明ー血脈と因果の考察及び王室との関りー』だ。

 聖女の誕生には、法則性がないとされている。だが、その血脈を遡り、因果を紐解けないかと着想した。

 しかし、王族や貴族の間では非常に血統が重んじられる。

 聖女誕生と背反する、暗黙の常識があった。

 だから、聖女は選定された時点で実の家族の戸籍からは切り離され、神の使いとして王太子と婚姻を結ぶ。

 実際には聖女と家族の交流が一切絶たれるような非人道な振る舞いはないが、王国側にとっては敢えて不明瞭にしておきたい、繊細な部分だった。

 いくら歴史に関わる研究であっても、そのような内容には国教会からの補助も降りない。

 食うにも困り、爵位と共に売り飛ばされそうになったイレーネは、研究の成果を持って逃亡した。

 しかし、幼い少女がそう長く一人で生きられるような世の中ではない。

 人買いに攫われ、娼館に売られかけたところで、イレーネは苦し紛れの交渉を持ち掛けた。

 悪心のある者は、どの世界にも珍しくない。

 半数は恐れ尻込みする中、フェルナンド子爵が話に喰いついた。

 初めは聖女を創り上げるだけの企みだったものを、貴族相手へのビジネスにまで発展させたのは、フェルナンド子爵の罪業だ。

 だから、オリヴィエは……どうにもイレーネを憎み切れない。

「本当にそれで良いのか? 殺されかけたというのに……お人好しにもほどがある」

 同意を求めると、ルーカスは不満そうに眉をひそめた。

 オリヴィエはふわりと広げたスカートの中心にそっと、埋まるように腰かけている。

 ずっと憧れていた、純白のウエディングドレスに身を包んで。

 馬車の中で向かい合うルーカスは正装で、ロイヤルブルーの綬と、繊細な刺繍を施した白のテールコートの姿だ。

 亜麻色の髪に白い衣装が良く映える。
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