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聖女の祝福

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「選定式の聖女像は、偽物とすり替えられていたんだ。今、この場にある本物が、オリヴィエを聖女だと認めてくれた」

「じゃ、じゃあ、私……本当に?」

 オリヴィエは、目の前にある琥珀色の瞳をじっと見つめた。

 太陽の光を宿した双眸は、神秘的な輝きを帯びてオリヴィエを見つめ返す。

「私、ルーカスのお嫁さんになれるのね……?」

 実感までには至らない。

 けれど、オリヴィエは夢中で言葉を紡いだ。

 自分の願望が、儚く散ってしまう前に、現実のものにしたかった。

 ルーカスは、力強く頷いた。同時に、抱かれる腕に力が籠る。

「嬉しいわ、ルーカス。私、ずっと、貴方が好きだった……」

「ああ」

 知っている。と囁いたかと思うと、ルーカスはオリヴィエの唇を優しく塞いだ。

 触れ合う唇の感覚に、オリヴィエの胸は甘く締め付けられる。

 オリヴィエは静かに瞼を閉じた。

 ここが聖堂で、人目があるのも知っていてなお、抗えない。

「お気持ちはお察ししますが、時と場所をわきまえて下さらないと。目のやり場に困ります」

 セルゲイの声が遠く聞こえる。

 しかし否定的な言葉とは裏腹に、声音には慈しみが溢れていた。

「いいえ。王太子殿下と聖女となられる乙女が相愛でいらっしゃるとは、なんと尊い光景でしょう……」

 ネフェルトはうっとりとため息を吐くように否定してくれる。

 ゆっくりと顔が離れると、今度はオリヴィエからルーカスを抱きしめた。

 一瞬、くすぐったそうな吐息が項をくすぐり、すぐに抱きしめ返してくれる。

 無作法だとは承知の上で、神と聖女アイリスへ誓った。




 ”もう、ずっとずっと、離さないで。

 どんな困難でも、この人と共に超えて行くから”と。







 Fin.






 *おまけ*





 聖殿でオリヴィエが聖女と認められた日から、1年と6カ月の月日を経て、ルーカスとオリヴィエは婚礼を挙げた。

 国内各所の貴族を始め、各国の貴賓の祝福を受けて2人は無事に夫婦となった。

 両親は元より、兄、クリストファーも泣いて祝福してくれた。

 祝辞の合間にルーカスを睨みつけているような素振りもあったが……多分、気のせいだろう。

 1年半は長いようで短くもあった。

 王族の結婚には、膨大な準備事項がある。

 ルーカスたっての希望で、交渉の結果もたらされた最短の期間だった。

 オリヴィエは幼い頃、ルーカスに嫁ぐ気満々だったお陰で、妃に必要な教養はある程度備えていた。



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