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聖女の祝福

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 突然のことに、オリヴィエの体は硬直する。

「団長、これは」

「やっぱり、オリヴィエが聖女だったんだ! 俺の目に狂いはなかった」

 突然の浮遊感に続く抱擁で、オリヴィエの頭は真っ白に染まる。

「オリヴィエは、聖女なんだよ。つまり」

 ルーカスは、満面の笑みを浮かべた。

「俺の花嫁はお前だ」

(え――?)

 ルーカスは一度抱擁を解いてオリヴィエを地に降ろす。

 だが、爪先が付くか付かないかのうちに、腰を抱えて高々と抱え上げた。

(ひゃぁ)

「失礼します。ヴァンス様がお越しになりました」

 口の中で小さく悲鳴を上げるのと同時に、オリヴィエの視線の先にある扉が開く。

 顔を出したのはセルゲイだった。案内役の若い神官は、ルーカスの奇抜な行動に目を見張り、立ち尽くした。

「やれやれ、せっかちな。もう結論を出してしまわれたんですね。私も、世紀の瞬間を見届けたかったのに」

 ルーカスはオリヴィエの腰を抱えたまま、ぐるりと体を回してセルゲイを振り仰ぐ。

 身体の動きに合わせるとセルゲイが視界から消えたため、オリヴィエは精一杯首を回す。

「まあ、無理もないですね。あれほど、望まれていたんです」

「ありがとう、お前のお陰だ! お前が見つけ出してくれたアイリス像が、オリヴィエを聖女だと示してくれた! セルゲイ、俺は今回ほどお前の存在を有難いと思ったことはない! 自慢の部下だ」

「それは光栄です。私も、お2人が結ばれるなら至上の喜びです」

 セルゲイは満面の笑みで応じている。

 オリヴィエはふと、胸騒ぎを覚えた。

(ちょっと待って……)

 今、この場にいるのは、ルーカスとセルゲイ。

 大神官のネフェルトに、アイリス像に、オリヴィエ……。

 今までの会話を頭の中に開陳すると、ようやく、情報が集約した。

「団長、つかぬことをお伺いしますが、私を聖女だと思っているんですよね? でも私、落選したんですよ?」

「当たり前だ。オリヴィエはどんな時も美しく、誇り高く、慈愛に満ちた行いを貫いていた。お前ほど聖女に相応しい女は他にいない」

 怒涛の如く畳み掛けられる褒め言葉に、オリヴィエの頬はみるみる熱くなる。

「赤くなって、可愛いな、オリヴィエ」

 戸惑うオリヴィエの顔を、ルーカスは吐息の触れ合うほどの近さで覗き込んだ。

 至近距離で目が合い、心臓が激しく脈を打つ。
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