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退魔の輝き
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宿舎へ戻ると、先行して到着した医師が、既に怪我人の治療に当たっていた。
ルーカスの要望で、オリヴィエもすぐに診察を受けることができた。
個室に通してもらい、身に着けていたものを脱ぐ。
改めて立ってみれば、オリヴィエの衣類はボロボロだった。
満身創痍が相応しい乱れようで、左袈裟に、ざっくりと一線に切り裂かれていた。
気付かなかったが、マントと騎士服を切り裂かれたので背中が丸見えとなっていた。
ブルーの騎士服にはべっとりと血糊が付いて、元からこんなにどす黒い模様だったのでは、と思わせるような有様だ。
オリヴィエも自分で服を脱いで、ぞっとなったほどだ。
街医者のスクルドと共に、オリヴィエの診察を担当してくれたのは、なんとあの、盲目の賢者オルガノだった。
彼は頻度を増した地震に異変を感じ、この地へ赴いていたのだという。
医師のスクルドはオリヴィエの惨状を見、攻撃の経緯を聞いて大慌てで診察してくれたのだが、結果はオリヴィエの体感通り。
見事な『無傷』だった。
「何故かはわかりません。……殿下やオリヴィエさんが嘘をついているとは思えませんが、全くの健康体です」
「では、次は私が診させて頂こう。お嬢さん、手を、いいかな」
「はい、いえ、私が伺います」
オリヴィエが予備の貫頭衣に着替えて身なりを整えると、ベッドサイドで診察してくれていたスクルドと入れ替わるようにオルガノが前に出る。
足腰の弱っている老人を立たせて、ベッドに座ったままなのも気が引けて、オリヴィエは自ら歩み寄った。
年季の入った皺だらけの手に、そっと自分の手を添える。
「お嬢さんにはいつか、また診察させてほしいと話していたね。奇妙な縁だが、ここで叶ってよかった」
「その節は、お世話になりました。いつも、お恥ずかしい姿ばかりをお見せして……」
「私は医者でもあるのだよ? 具合が悪いのは、恥ずかしいことではない……」
オルガノの手は、3年前と変わっていない。
油分が少なく皺の深い指先は、彼の知恵の深淵を思わせた。
彼の叡智に支えられた手は、いつも変わらず優しかった。
「おや……これは……。なるほど、そういう意味だったのですね」
「なにか……?」
「以前私がお伝えした預言を、覚えていますか」
オルガノの言葉の合間に、スクルドが部屋を辞す。
階下が俄かに騒がしくなったからだ。
引き上げた騎士団が到着したのだろう。
「はい。私は……数奇な運命を辿るだろうと。その結果、若くして神の御許に召されると……」
忘れようがない。
この言葉を思い出す度、オリヴィエは絶望に包まれてきた。
「その通り、お嬢さんは”神の御許に召され、新たなる生を授けられる”と。新たなる生を受けるのは別の世界だと解釈していましたが、どうやら早計だったようです」
「それは、一体どういう……?」
オルガノはきゅっと、オリヴィエの掌を握った。
ルーカスの要望で、オリヴィエもすぐに診察を受けることができた。
個室に通してもらい、身に着けていたものを脱ぐ。
改めて立ってみれば、オリヴィエの衣類はボロボロだった。
満身創痍が相応しい乱れようで、左袈裟に、ざっくりと一線に切り裂かれていた。
気付かなかったが、マントと騎士服を切り裂かれたので背中が丸見えとなっていた。
ブルーの騎士服にはべっとりと血糊が付いて、元からこんなにどす黒い模様だったのでは、と思わせるような有様だ。
オリヴィエも自分で服を脱いで、ぞっとなったほどだ。
街医者のスクルドと共に、オリヴィエの診察を担当してくれたのは、なんとあの、盲目の賢者オルガノだった。
彼は頻度を増した地震に異変を感じ、この地へ赴いていたのだという。
医師のスクルドはオリヴィエの惨状を見、攻撃の経緯を聞いて大慌てで診察してくれたのだが、結果はオリヴィエの体感通り。
見事な『無傷』だった。
「何故かはわかりません。……殿下やオリヴィエさんが嘘をついているとは思えませんが、全くの健康体です」
「では、次は私が診させて頂こう。お嬢さん、手を、いいかな」
「はい、いえ、私が伺います」
オリヴィエが予備の貫頭衣に着替えて身なりを整えると、ベッドサイドで診察してくれていたスクルドと入れ替わるようにオルガノが前に出る。
足腰の弱っている老人を立たせて、ベッドに座ったままなのも気が引けて、オリヴィエは自ら歩み寄った。
年季の入った皺だらけの手に、そっと自分の手を添える。
「お嬢さんにはいつか、また診察させてほしいと話していたね。奇妙な縁だが、ここで叶ってよかった」
「その節は、お世話になりました。いつも、お恥ずかしい姿ばかりをお見せして……」
「私は医者でもあるのだよ? 具合が悪いのは、恥ずかしいことではない……」
オルガノの手は、3年前と変わっていない。
油分が少なく皺の深い指先は、彼の知恵の深淵を思わせた。
彼の叡智に支えられた手は、いつも変わらず優しかった。
「おや……これは……。なるほど、そういう意味だったのですね」
「なにか……?」
「以前私がお伝えした預言を、覚えていますか」
オルガノの言葉の合間に、スクルドが部屋を辞す。
階下が俄かに騒がしくなったからだ。
引き上げた騎士団が到着したのだろう。
「はい。私は……数奇な運命を辿るだろうと。その結果、若くして神の御許に召されると……」
忘れようがない。
この言葉を思い出す度、オリヴィエは絶望に包まれてきた。
「その通り、お嬢さんは”神の御許に召され、新たなる生を授けられる”と。新たなる生を受けるのは別の世界だと解釈していましたが、どうやら早計だったようです」
「それは、一体どういう……?」
オルガノはきゅっと、オリヴィエの掌を握った。
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