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退魔の輝き

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 ルーカスたちは先ほどから、こんな生物と戦闘を続けていた。

 疲労はいかほどのものか。

 イレーネに背を押されて、リリアは木の隙間から進み出た。

 イレーネは一度森に引っ込むと、人目を盗むように大きく迂回した。

 遠回りをして後方に回り込むつもりらしい。

「リリア! 何をしに来た!? 早く、宿舎へ戻れ!」

 リリアが森を外れて10数メートル進み出たところで、姿に気付いたのは、やはりルーカスだ。

 物音など、魔物の前ではないにも等しかったのに、研ぎ澄まされた感覚は人一倍だった。

「私も、ち、皆の力になれると、思って」

 リリアは、健気にも声を絞り出した。

 手に下げた籠から香水瓶のような物を取り出す。

 目の前に差し出して、掲げた。

「これは、聖水……私が魔物を、祓います……!」

「よく聞こえんが、早く戻れ! 残念ながら、護ってやれる余裕が欠片もない!」

 ルーカスは最初に一度振り向いただけで、目を魔物から離さない。

 一瞬の油断が致命傷を招くからだ。

 他の騎士は、そんな2人の会話さえ耳に入らない。

 リリアに気付きもしていないだろう。

 当然、イレーネの動向は誰の目にも咎められることはなかった。

 リリアは、ガタガタと震える手で、瓶の蓋を外そうとする。

 しかし手が震えているせいで手間取っていた。

 そうしているうちに、ぐるり、とドラゴンが頭を巡らす。

 飛び上がろうとしたのか、翼を上下したせいで、爆風が起きる。

「ひっ」

 リリアが短く悲鳴を上げる。籠からバラバラと小瓶が零れた。

 落下し、小石に当たって跳ねた1本が砕け、弾ける。

 中身の液体が飛び散った。

 ギュアァアア

 ドラゴンは飛翔を止めて、ぎっと眼光をリリアに向けた。

 オリヴィエが黙って見ていられたのは、ここまでだ。

「リリア!」

 立ち聞きしたイレーネの話では、小瓶の中身は魔物が忌避する匂いの物体だ。

 それは事実なのか、砕けた瓶の中身が忌避するものか、誘引するものかもわからない。

 どちらにしろドラゴンは丸太を連ねたような尾を持ち上げ、リリアへ向けて振り下ろした。

「危ないっ!」

 オリヴィエは隠れていた場所から、飛び出した。

 リリアに飛び付きながら、地面へ押し倒す。

 2人のすぐ真上を、尾が通り過ぎた。地面が抉られ、土埃が舞う。

 もし避けなければ命はなかっただろう。

「オリヴィエ、さん!?」

「いいから走って!!」

 オリヴィエは体を起こすと、襟首をつかんでリリアを引き起こした。

 2人が何をするのか、見届けるつもりだったのに。

 濛濛とする土ぼこりの中でも、オリヴィエの生存が、露見した。

 騎士たちの騒ぐ音声がパラパラと、途切れ途切れに耳に届く。
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