上 下
120 / 140
退魔の輝き

しおりを挟む
 オリヴィエは音を頼りに駆け続けた。

 徐々に視界が開け、森を抜ける。

 あの2人はどこへ運ぼうとしていたのやら、もう10分は走り続けていた。

 それくらいに離れた距離から、風が吹きつけていた。

 どれだけ巨大な魔物が現れたのか。

 さらに進むと、ようやく見覚えのある、柵が巡らされた建物が見えた。

 宿舎に辿り着いた。

 そこには、既に魔物の襲撃を受けた形跡が見えた。

 宿舎の壁は所々傷つき、建物の破片が土の上へ散っている。

 オリヴィエが呼吸を整えながらエントランスへ接近すると、何事かの話し声が聞こえて来た。

 高めの、女性の声……

 イレーネのものだと気づくのに、そう時間は掛からなかった。

「……騎士団の皆さんは今なお苦戦を強いられています。私たちは行かなくては」

 誰かと会話しているようだ。1人ではないらしい。

 いきなり乗り込むのではなく、様子を見よう。

 そっと身を屈め、扉の外から聞き耳を立てた。

「でも……危険です! それに、聖女様が行かれてしまったら、私たちは……」

「私たちなら、大丈夫です。聖女様がいるのですから。ここへは、聖女様の加護を宿した聖水を残して行きます。先ほど要所にも撒いておきましたので、魔の物が近づくことはできないはずです」

 口々に「聖女様」と声が上がる。

 話しているのはイレーネだが、その場にはリリアもいるようだ。

 声の種類から察するに、何人もの人間がエントランスに集結しているようだった。

 恐らく宿舎で働く使用人たちだろう。

「でも、聖女様は顔色が優れないようだ……」

「それでも立ち上がろうと、聖女様は強い心で決心されました。どうぞ、皆様も、成功を信じて応援してください。さぁ、聖女様」

 今まではそれほど多くなかったのに、やたらと「聖女」の言葉が頻発している。

 オリヴィエは息を潜めながらも、そんな事象を頭にひっかけていた。

 それに聖女としての力が目覚めた事実や、加護を宿す術があるなど初耳だ。

 何を企み、実行しようとしているのか、まったく見当がつかない。

 リリアの声は小さい。

 扉越しでは何と言っているのかわからない。

 すぐに足音が近づいたので、オリヴィエは慌てて身を翻した。

 曲がり角まで飛ぶようにして、身を隠す。

 扉が開いて、白いワンピース姿のリリアと、後ろに従うイレーネが外に出た。

 イレーネは手に小さな籠のようなものを携えている。

 使用人たちは、一様に不安そうな表情で2人を見送る。

「お気をつけて……」

「ええ、必ず成功させます」

 2人はオリヴィエに気付く様子もなく、足早に去って行った。

(魔物のいる方角へ向かう気だわ……団長からの指揮があった様子もないのに、どうして……?)

 まだ、頭の中がごちゃごちゃしている。

 しかし、魔物と騎士団の元へは、初めから合流するつもりだった。

 疑問だらけだが、こっそり2人を追尾することに決めた。

 幸い2人はオリヴィエの存在に気付いていない。

 先頭を、イレーネが入れ替わる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...