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魔物

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「どうか、ルーカス様を支えてあげて。他の誰も、貴女の代わりは務まらないの……」

「っ……オリヴィエさん。わたし……」

 リリアの大きな瞳に、涙が溜まっていく。

 オリヴィエは言いようのない悲しみが押し寄せて、息を詰まらせた。

 どうして貴女が泣くの?

「オリヴィエさん、私、違うの……」

 リリアはふるふると首を振った。

 その度に、涙の粒がぽろり、ぽろり、と散る。

「本当は……私、聖女じゃな」

 震えながら、リリアがオリヴィエに飛びついて来た。

 と、視界が揺れたので、そう感じたのだが、実は違った。

 鼻と口を覆うように布が押し当てられたのは、背後からだった。

「!?」

 何事かと振り向くと、背後にはイレーネが立っている。

 途端に、くらり、と眩暈がした。

 急に全身から力が抜け、立っていられなくなる。

「オリヴィエさん!」

 倒れそうなオリヴィエを支えたのは、リリアだった……と思う。

 そのままズルズルと崩れ落ちるオリヴィエに近寄り、イレーネは手に携えた布を再度、オリヴィエの口元に押し当てた。

 オリヴィエの視界はどんどん不明瞭になり、闇に引きずり込まれていくようだった。

「イレーネ、何をするつもりなの?」

「静かにして。あんた、何を口走ろうとしたかわかってるの? こうせざるを得なかったの、あんたのせいよ……」

 2人の声も、切れ切れになり、やがて何も聞こえなくなった。










 それで、次に気付いたのが、今だ。

 順を追って考えれば、イレーネに何かをされたのだとしか考えられなかった。

(イレーネ! 貴女なのね?)

 再度、頭の中での台詞を思い起こし、どの台詞が誰のものだったのか、確信を得る。

 何かをされたとすれば、イレーネの持っていた布に、何かしらの薬物が染み込ませてあったと考えるのが妥当だ。

 リリアはあの時、何かを言いかけた。聖女に関わる重要な証言だ。

 その告白を……オリヴィエに聞かせたくなかった。

 オリヴィエは、身体を包んでいる布状のものを手当たり次第に押してみる。

 手は、左右がくっついている。

 両手首を縛られているようだ。

「どこなの、ここは? 誰か……いるのでしょう?」

 ほとんど伸縮せず、感触は酷くざらついている。

 麻袋にでも詰められているのだろうか。袋ならどこかに口があるはずだ。

「どうやら目を醒ましたらしいぞ。どうする」

「いいさ、出られやしない。放っておけ」

「貴方たち、事情を知っているなら、私をここから解放して!」

「冗談じゃねえ、こっちはあんたを殺すよう言いつかってるんだ。ここで袋叩きにされないだけましだと思え」

 声のした方向へ、オリヴィエは意識を集中させる。
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