118 / 140
魔物
16
しおりを挟む
「どうか、ルーカス様を支えてあげて。他の誰も、貴女の代わりは務まらないの……」
「っ……オリヴィエさん。わたし……」
リリアの大きな瞳に、涙が溜まっていく。
オリヴィエは言いようのない悲しみが押し寄せて、息を詰まらせた。
どうして貴女が泣くの?
「オリヴィエさん、私、違うの……」
リリアはふるふると首を振った。
その度に、涙の粒がぽろり、ぽろり、と散る。
「本当は……私、聖女じゃな」
震えながら、リリアがオリヴィエに飛びついて来た。
と、視界が揺れたので、そう感じたのだが、実は違った。
鼻と口を覆うように布が押し当てられたのは、背後からだった。
「!?」
何事かと振り向くと、背後にはイレーネが立っている。
途端に、くらり、と眩暈がした。
急に全身から力が抜け、立っていられなくなる。
「オリヴィエさん!」
倒れそうなオリヴィエを支えたのは、リリアだった……と思う。
そのままズルズルと崩れ落ちるオリヴィエに近寄り、イレーネは手に携えた布を再度、オリヴィエの口元に押し当てた。
オリヴィエの視界はどんどん不明瞭になり、闇に引きずり込まれていくようだった。
「イレーネ、何をするつもりなの?」
「静かにして。あんた、何を口走ろうとしたかわかってるの? こうせざるを得なかったの、あんたのせいよ……」
2人の声も、切れ切れになり、やがて何も聞こえなくなった。
それで、次に気付いたのが、今だ。
順を追って考えれば、イレーネに何かをされたのだとしか考えられなかった。
(イレーネ! 貴女なのね?)
再度、頭の中での台詞を思い起こし、どの台詞が誰のものだったのか、確信を得る。
何かをされたとすれば、イレーネの持っていた布に、何かしらの薬物が染み込ませてあったと考えるのが妥当だ。
リリアはあの時、何かを言いかけた。聖女に関わる重要な証言だ。
その告白を……オリヴィエに聞かせたくなかった。
オリヴィエは、身体を包んでいる布状のものを手当たり次第に押してみる。
手は、左右がくっついている。
両手首を縛られているようだ。
「どこなの、ここは? 誰か……いるのでしょう?」
ほとんど伸縮せず、感触は酷くざらついている。
麻袋にでも詰められているのだろうか。袋ならどこかに口があるはずだ。
「どうやら目を醒ましたらしいぞ。どうする」
「いいさ、出られやしない。放っておけ」
「貴方たち、事情を知っているなら、私をここから解放して!」
「冗談じゃねえ、こっちはあんたを殺すよう言いつかってるんだ。ここで袋叩きにされないだけましだと思え」
声のした方向へ、オリヴィエは意識を集中させる。
「っ……オリヴィエさん。わたし……」
リリアの大きな瞳に、涙が溜まっていく。
オリヴィエは言いようのない悲しみが押し寄せて、息を詰まらせた。
どうして貴女が泣くの?
「オリヴィエさん、私、違うの……」
リリアはふるふると首を振った。
その度に、涙の粒がぽろり、ぽろり、と散る。
「本当は……私、聖女じゃな」
震えながら、リリアがオリヴィエに飛びついて来た。
と、視界が揺れたので、そう感じたのだが、実は違った。
鼻と口を覆うように布が押し当てられたのは、背後からだった。
「!?」
何事かと振り向くと、背後にはイレーネが立っている。
途端に、くらり、と眩暈がした。
急に全身から力が抜け、立っていられなくなる。
「オリヴィエさん!」
倒れそうなオリヴィエを支えたのは、リリアだった……と思う。
そのままズルズルと崩れ落ちるオリヴィエに近寄り、イレーネは手に携えた布を再度、オリヴィエの口元に押し当てた。
オリヴィエの視界はどんどん不明瞭になり、闇に引きずり込まれていくようだった。
「イレーネ、何をするつもりなの?」
「静かにして。あんた、何を口走ろうとしたかわかってるの? こうせざるを得なかったの、あんたのせいよ……」
2人の声も、切れ切れになり、やがて何も聞こえなくなった。
それで、次に気付いたのが、今だ。
順を追って考えれば、イレーネに何かをされたのだとしか考えられなかった。
(イレーネ! 貴女なのね?)
再度、頭の中での台詞を思い起こし、どの台詞が誰のものだったのか、確信を得る。
何かをされたとすれば、イレーネの持っていた布に、何かしらの薬物が染み込ませてあったと考えるのが妥当だ。
リリアはあの時、何かを言いかけた。聖女に関わる重要な証言だ。
その告白を……オリヴィエに聞かせたくなかった。
オリヴィエは、身体を包んでいる布状のものを手当たり次第に押してみる。
手は、左右がくっついている。
両手首を縛られているようだ。
「どこなの、ここは? 誰か……いるのでしょう?」
ほとんど伸縮せず、感触は酷くざらついている。
麻袋にでも詰められているのだろうか。袋ならどこかに口があるはずだ。
「どうやら目を醒ましたらしいぞ。どうする」
「いいさ、出られやしない。放っておけ」
「貴方たち、事情を知っているなら、私をここから解放して!」
「冗談じゃねえ、こっちはあんたを殺すよう言いつかってるんだ。ここで袋叩きにされないだけましだと思え」
声のした方向へ、オリヴィエは意識を集中させる。
29
お気に入りに追加
630
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました
ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる