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魔物
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地割れだ! と理解した瞬間、目の前の地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
「わぁああぁ!」
方々で悲鳴が上がる。
それと同時に、ルーカスは体を押し上げて走った。
間一髪で亀裂から離れる。
次の瞬間には地面が崩れ去り、巨大な穴が広がる。
「何だ? 何が起きてる!?」
ルーカスは唖然として叫んだ。
駐屯所の敷地一帯に地割れが走り、地面が裂けた。
その裂け目から、巨大な生き物が姿を現す。
(これが……魔物か!?)
禍々しくも神々しい光を纏う巨体が、ルーカスに影を落とす。
身の丈は民家の建ち並ぶ街を容易く遮り、大きな翼をゆっくりと羽ばたかせると突風が巻き起こる。
長い首はしなるように長く、頭部から生えた角が雄々しく天を向く。
その生き物こそ、魔物だった。
眼光は赤く、紅蓮の炎のように揺らめいている。
しかし、オリヴィエを攫った鳥とは違う。
その姿は鳥ではない。
まるで、ドラゴンだ。
グォォオウ
初めの音しか聞き取れなかった。
咆哮一つで突風が叩きつけ、建物の窓ガラスが弾けた。
ルーカスは咄嗟に腕を上げて頭部を庇うが、ビリビリとした衝撃がむき出しになった肌を叩く。
翼を一振りされると空気が震えた。
身体が僅かに浮き上がるが、どうにか堪える。
古文書の挿し絵にあった、伝説の魔獣の姿そのものだった。
体長は優に10メートルを超える。
「何だあれは!?」
「でかすぎる……っ!」
身動きの取れる騎士たちが、剣を抜いて一斉に駆けつけた。構えるが、明らかに浮き足立っている。
(実物の魔物を見たことがあるわけではないが、それにしても大きすぎる)
リリアたちはまだ、建物の中にいる。
街の市民にも、非難を呼び掛けたいところだが、そんな余裕はない。
最低限度、街から遠ざけねば。
古の伝承では、魔物は聖女の聖なる光に封じられたと言われる。
しかし、その力をどうやって発現させるかを知る者は、誰もいない。
まして、リリアのあの様子では――
「構えよ! 牽制しろ。草原へ誘い出せ!」
ルーカスは剣を引き抜き、声を張り上げた。
騎士たちが呼応して声を張る。
「うぉおぉおお!」
雄叫びを上げて突進してくる一団の、先頭を切って駆け出す。
「奴の注意を引きつけろ! 攻撃せず回避に専念だ!」
できる事から、力を尽くすしかない。
騎士団に在する騎士たちは、こんな事態も覚悟の上で、日々鍛錬に励んでいる。
「わぁああぁ!」
方々で悲鳴が上がる。
それと同時に、ルーカスは体を押し上げて走った。
間一髪で亀裂から離れる。
次の瞬間には地面が崩れ去り、巨大な穴が広がる。
「何だ? 何が起きてる!?」
ルーカスは唖然として叫んだ。
駐屯所の敷地一帯に地割れが走り、地面が裂けた。
その裂け目から、巨大な生き物が姿を現す。
(これが……魔物か!?)
禍々しくも神々しい光を纏う巨体が、ルーカスに影を落とす。
身の丈は民家の建ち並ぶ街を容易く遮り、大きな翼をゆっくりと羽ばたかせると突風が巻き起こる。
長い首はしなるように長く、頭部から生えた角が雄々しく天を向く。
その生き物こそ、魔物だった。
眼光は赤く、紅蓮の炎のように揺らめいている。
しかし、オリヴィエを攫った鳥とは違う。
その姿は鳥ではない。
まるで、ドラゴンだ。
グォォオウ
初めの音しか聞き取れなかった。
咆哮一つで突風が叩きつけ、建物の窓ガラスが弾けた。
ルーカスは咄嗟に腕を上げて頭部を庇うが、ビリビリとした衝撃がむき出しになった肌を叩く。
翼を一振りされると空気が震えた。
身体が僅かに浮き上がるが、どうにか堪える。
古文書の挿し絵にあった、伝説の魔獣の姿そのものだった。
体長は優に10メートルを超える。
「何だあれは!?」
「でかすぎる……っ!」
身動きの取れる騎士たちが、剣を抜いて一斉に駆けつけた。構えるが、明らかに浮き足立っている。
(実物の魔物を見たことがあるわけではないが、それにしても大きすぎる)
リリアたちはまだ、建物の中にいる。
街の市民にも、非難を呼び掛けたいところだが、そんな余裕はない。
最低限度、街から遠ざけねば。
古の伝承では、魔物は聖女の聖なる光に封じられたと言われる。
しかし、その力をどうやって発現させるかを知る者は、誰もいない。
まして、リリアのあの様子では――
「構えよ! 牽制しろ。草原へ誘い出せ!」
ルーカスは剣を引き抜き、声を張り上げた。
騎士たちが呼応して声を張る。
「うぉおぉおお!」
雄叫びを上げて突進してくる一団の、先頭を切って駆け出す。
「奴の注意を引きつけろ! 攻撃せず回避に専念だ!」
できる事から、力を尽くすしかない。
騎士団に在する騎士たちは、こんな事態も覚悟の上で、日々鍛錬に励んでいる。
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