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魔物

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 グレンはきまり悪そうに、後頭部をポリポリと指先で掻く。

「それは有難い。だがまだ、原因が特定できていない。異変を感じたらすぐに報告するように。クリストファーには今、伝令を頼んである」

「では、俺は何を……」

「外の団員の体調を把握したい。……それと、お前の部屋は2階の端だったな。リリ……聖女かオリヴィエを見ていないか?」

「聖女様と、隊長の妹ですか? 見てはいませんね。ただ話し声が聞こえたのでどこかしらの部屋には」

「ならいい、俺も同行しよう」

 待っていても埒が明かない。

 グレンと客室へ同行して、ついでにリリアの部屋も訪ねよう。

 人部屋ずつ様子を窺えば、向こうにルーカスの動きも伝わるだろう。

 予定を変更して、さっさと腰を上げた。

「あの蟲も、やっぱり魔物の類なんでしょうかね」

「クレバスが関係しているとなれば、そう見るのが妥当だろうな。クリストファーが報告を怠るとは思わんが、以前にこういった例は?」

「大地の震動は、近頃頻発していましたが、こんなのは」

 初めてです。そう、グレンは続けようとしたのだろう。

 だが、それは途中で遮られた。

 ガシャーンと、部屋の窓が割れる音が轟いたからだ。

 間を置かずに、何かが床に衝突するような衝撃音が。女性の悲鳴が続けざまに上がる。

 それがリリアたちのものであると、瞬時に理解した。

「聖女の部屋からだ!」

 ルーカスは剣を抜き、駆け出す。

 グレンは丸腰だったが、ルーカスを追い、2階へ駆けあがった。

(何が起きた? また、蟲か、それとも他の魔物が!? 部屋にはオリヴィエがいるはずだ)

 嫌な予感が胸中を巡る。

 隣室からも、悲鳴を聞きつけた騎士が飛び出していた。

「聖女様! ご無事ですか!?」

「何をしている、早く踏み込め!」

「それが、何かが閊えていて、開きません」

 騎士はドアノブを捻ったまま、前後に激しく揺すった。

 だが、主張通り扉の向こうが何かで塞がれているらしく、指の先ほどしか開かない。

「助けて! 大きな鳥が!」

 中からリリアが悲痛な叫びを上げた。

「鳥だと!? オリヴィエ、中はどうなってる!? 皆無事なのか」

「オリヴィエさんは……攫われたのっ! 聖女様を庇って……っ」

 扉越しに、イレーネが必死に訴える。

 ――はっ?

 とてつもない報せに、一瞬頭の中が真っ白になる。

「オリヴィエが!? 何だと」

 オリヴィエが、鳥に攫われた。

 言葉は反芻できるのに、理解が追い付かない。
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