112 / 140
魔物
10
しおりを挟む
「リリアには俺から話す。呼んできてくれ」
ルーカスは深く息を吐いた。
クリストファーの指摘通りだ。
リリアは聖女だからこそ、この視察への同行を許された。
更に各地で領主の歓迎も受けている。
それなのに、有事に真っ先に逃げたとあっては資質を疑われる。
「大丈夫ですよ。団長の優しさは、聖女様にも充分伝わりますから」
退出際に、オリヴィエが優しく微笑んだ。
(そんな風に、微笑わないでくれ……)
些細な感傷に浸っている状況でないのに、ルーカスはつい、オリヴィエ美貌を目で追ってしまう。
オリヴィエは自分をどう見ているのだろう。
成り行きに流されるまま、リリアを娶ろうとしているルーカスに何を想うのか。
その妃候補の心情を気にしすぎて采配を誤る上司は、あの清廉な瞳にどのように映るだろう。
一刻も早く誤解を解きたいのに。焦燥のみが募る。
クリストファーは、自分とオリヴィエを逃がしたいと明言した。
すると、オリヴィエはルーカスを追って騎士団へ入団し、今でも想いを寄せていると考えることもできる。
奇怪な蟲の出現は得体のしれない危機ではある。
だが、聖女の加護が発現していない今、治められさえすればひょっとして、ルーカスにとってのチャンスと変わるかもしれない。
「そういえば、時間がないとは、どういう意味だ?」
オリヴィエの去り際に、背へ向かって問いかけると「えっ」と身体をこわばらせる。
「さっきクリストファーが言っていただろう。時間がない、と」
「そ、それは……」
言い淀むオリヴィエの反応に、ルーカスは首を傾げた。
「言えないことなのか? 俺にも関係があるような話し方だった気がするが」
「兄は私の、騎士団への在籍を良く思っていませんから……恐らくそういった意味だと」
納得のいく返事ではなかったが、オリヴィエは追及を避けるように部屋を出て行った。
やや、気にはなるが、直ぐに頭を切り替えた。
リリアへ何と言って聞かせよう。
(命じれば聞き分けるとは思うが……そもそも、どうしてリリアはあんなに怯えているんだ?)
リリアが、魔物の危険性を熟知しているとは思えない。
ルーカスが見る限りでは、リリアはどちらかと言えば無鉄砲な性質を兼ね備えているようだったのに。
どうして魔物には怖気づくのだ?
どちらにしてもリリアへの指示は、決まった。
一つを片付けたら、次は各騎士の様子を見て、夜の警備をどう配置するか決めよう。
頭の中で整理して、ルーカスはリリアとオリヴィエを待った。
しかし、待てど暮らせど戻らない。
「団長、不甲斐ない姿をお見せしました。意識ははっきりしていますし、安静にするほど体に不調もないので、復帰させてください……」
それどころか、第3隊副隊長のグレンが復帰を願い出ていた。
ルーカスは深く息を吐いた。
クリストファーの指摘通りだ。
リリアは聖女だからこそ、この視察への同行を許された。
更に各地で領主の歓迎も受けている。
それなのに、有事に真っ先に逃げたとあっては資質を疑われる。
「大丈夫ですよ。団長の優しさは、聖女様にも充分伝わりますから」
退出際に、オリヴィエが優しく微笑んだ。
(そんな風に、微笑わないでくれ……)
些細な感傷に浸っている状況でないのに、ルーカスはつい、オリヴィエ美貌を目で追ってしまう。
オリヴィエは自分をどう見ているのだろう。
成り行きに流されるまま、リリアを娶ろうとしているルーカスに何を想うのか。
その妃候補の心情を気にしすぎて采配を誤る上司は、あの清廉な瞳にどのように映るだろう。
一刻も早く誤解を解きたいのに。焦燥のみが募る。
クリストファーは、自分とオリヴィエを逃がしたいと明言した。
すると、オリヴィエはルーカスを追って騎士団へ入団し、今でも想いを寄せていると考えることもできる。
奇怪な蟲の出現は得体のしれない危機ではある。
だが、聖女の加護が発現していない今、治められさえすればひょっとして、ルーカスにとってのチャンスと変わるかもしれない。
「そういえば、時間がないとは、どういう意味だ?」
オリヴィエの去り際に、背へ向かって問いかけると「えっ」と身体をこわばらせる。
「さっきクリストファーが言っていただろう。時間がない、と」
「そ、それは……」
言い淀むオリヴィエの反応に、ルーカスは首を傾げた。
「言えないことなのか? 俺にも関係があるような話し方だった気がするが」
「兄は私の、騎士団への在籍を良く思っていませんから……恐らくそういった意味だと」
納得のいく返事ではなかったが、オリヴィエは追及を避けるように部屋を出て行った。
やや、気にはなるが、直ぐに頭を切り替えた。
リリアへ何と言って聞かせよう。
(命じれば聞き分けるとは思うが……そもそも、どうしてリリアはあんなに怯えているんだ?)
リリアが、魔物の危険性を熟知しているとは思えない。
ルーカスが見る限りでは、リリアはどちらかと言えば無鉄砲な性質を兼ね備えているようだったのに。
どうして魔物には怖気づくのだ?
どちらにしてもリリアへの指示は、決まった。
一つを片付けたら、次は各騎士の様子を見て、夜の警備をどう配置するか決めよう。
頭の中で整理して、ルーカスはリリアとオリヴィエを待った。
しかし、待てど暮らせど戻らない。
「団長、不甲斐ない姿をお見せしました。意識ははっきりしていますし、安静にするほど体に不調もないので、復帰させてください……」
それどころか、第3隊副隊長のグレンが復帰を願い出ていた。
15
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる