上 下
102 / 140
聖女

12

しおりを挟む
 イレーネは困ったように眉根を寄せた後、声を潜めた。

「リリアったら、酷いわ。オリヴィエさん、こんな性悪女のことなんて放っといて、楽しくおしゃべりしましょ」

(性悪女って……確かにリリアの態度はいただけないけど、団長を好きなだけなのよね)

 リリアはオリヴィエがルーカスに寄せる想いに気付いている。

 だからこそオリヴィエを気に入らなくなったのだろう。

「2人は、近頃聖殿でどう過ごしているの? しばらく会っていなかったから、教えてくれないかしら」

 リリアを放って、と前置きを受けたが、オリヴィエは敢えて2人に投げかける。

「私は最初と変わらず、シスターたちのお手伝いをしたり、聖殿内の清掃や炊き出しをしたり……。あと、リリアのお世話かしら。そのお陰で、私もお勉強に参加させてもらってるんです。聖女の侍女になるつもりなら、受けさせてくださると仰ったので」

 リリアが答えないのを見て取って、イレーネが話し始める。

「リリアはお妃教育も始まって、大変みたい。ずっと聖殿に籠りきりだから、鬱憤が溜まってたのかしら」

「私、お勉強は好きよ。ただ、早くルーカス殿下にお会いしたかっただけ」

 リリアはツンと顔を逸らし、窓の外を眺めながら言った。

(なによ、もう)

 オリヴィエとイレーネは互いに顔を見合わせる。

「リリアったら、二言目にはルーカス様って。それだけ好きなら何よりだわ。ね、オリヴィエさん」

「そうね。聖女様と殿下の気持ちがより強く結びつくのは良いことだわ」

 今度は、上手に淀みなく言えて、オリヴィエはほっとした。

 今は言葉にするだけで精一杯だが、早く心の底から祝福できますように。

 オリヴィエはイレーネの話に相槌を打ちながら、一人そう願った。

 その後の工程は順調で、2拠点を経てとうとう国境と接する街デュランドに到着した。

 王太子一行の到着を誰よりも喜んだのは、言わずもがな、兄のクリストファーだ。

「ああ、オリヴィエ! 会いたかったよ!! 元気だったかい?」

 団長・ルーカスと一言二言、視察団一行に挨拶を交わすやいなや、オリヴィエに向かい突撃してくる。

 人目も憚らず、熱い抱擁を受けた。

「お兄様!? ちょ、ちょっと……。皆様の……団長の目の前ですよ?」

「いいんだよ。私はオリヴィエの兄なんだから。ねえ、団長」

 クリストファーは悪びれもせず、ルーカスにも同意を求める。

 クリストファーをの妹好きを知る者は複雑な表情で、知らぬ者は面食らっていた。

「久しぶりの再会なら、やむを得ん」

 ルーカスは、クリストファーの性格とオリヴィエの間柄は理解しつつも、不真面目な態度が不満なのか、渋面を浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...