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聖女

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 リリアは、聖女の装いを連想させる、練色のローブを纏っていた。

 ルーカスが手を取り、馬車へエスコートする姿を、オリヴィエは自身の馬を従えながら警護者として見守る。

 本来は聖騎士団長の視察、が名目だったのに、すっかり王太子と未来の婚約者の構図になっている。

「まぁ! ルーカス様自ら、ありがとうございます」

 リリアは必要以上に大きな声で感激の意を表わした。

 リリアが今、オリヴィエに目を向けて、得意そうに口角を上げているような気がする……が、きっと気のせいだ。

 胸中に、またもや黒い靄が現れるが、表情に出ないよう、懸命に抑え込む。

 続けてイレーネが乗り込み、出立となる。

 聖殿の神職者と、セルゲイが一列に並び、見送る。

 今回は、セルゲイは王都に残るらしい。

 5名の兵が先導し、オリヴィエは残りの5名と共に馬車の後方に控え、従う。

 だが、城下から出るや否や、ルーカスが馬車を止めた。

「オリヴィエ、交替だ」

「はっ?」

 戸惑う周囲を他所に、ルーカスは半ば無理矢理オリヴィエの騎馬を奪い取った。

「女子供との会話はわからん。代わりに話し相手になってくれ」

 代わりに客車でリリアの相手をしろと、小声で命じる。

(ええ!? なに、それ?)

 一行の足を止め続ける訳にもいかず、オリヴィエはやむなく客車に乗り込んだ。

 リリアが不満気な目で、じとっとオリヴィエを睨む。

(私のせいじゃないのよ? 団長が、どうしてもって)

 オリヴィエは気まずさに目を逸らした。

 オリヴィエのせいではない。

 けれど、ルーカスとリリアが閉鎖された空間に2人でいるのは内心嫌だった。

 だからほっとした部分もあり、少しだけ気まずい。

「ごめんなさいね、オリヴィエさん。リリアがあんまり殿下にべたべたくっつくものだから、逃げられたの」

「ちょっと、イレーネ! 余計なこと喋らないでよ」

「自業自得なのに、ぷりぷりしちゃって。淑女からは程遠くて、困っちゃう。少しはオリヴィエさんを見習いなさいよ」

 イレーネはリリアとオリヴィエの微妙な関係を知ってか知らずか。

 または、オリヴィエの恋心には気付いていないのか、知っていれば到底投げかけられないだろう言葉ばかりをリリアに投げかける。

 リリアはフンと鼻を鳴らして、そっぽを向いた。

「いいわよ。どうせ殿下とは視察の間ずーっと一緒だもの。指をくわえて見てればいいわ」

「指なんてくわえなくても、オリヴィエさんなら男の人なんて選り取り見取りよ。リリアだって、あんなにオリヴィエさんを憧れの目でみていたのに、どうしてそんな態度を取るのよ」

「うるさいな。そんなの、私の勝手でしょ」

 リリアの機嫌がどんどん悪くなっていく。オリヴィエは居たたまれなくなる。

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