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聖女

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 ルーカスとの食事の約束が反古にされていなかったとわかって、オリヴィエは喜んだ。

 だが、手放しで喜べたわけでもない。

 リリアの言葉が深く突き刺さっていた。

 ”リリアとルーカスの邪魔をしようとしている”

 そんなつもりはない。

 ないのだが――果たして本心だと言えるだろうか……?

 オリヴィエが聖女を落選してから「聖女なんて現れなければいい」。

 と、心のどこかでそんな思いを抱いていたのも、また事実だったからだ。

 ルーカスがオリヴィエを食事に誘ってくれたのは、リリアが聖女に選ばれる前だ。

 上司と部下の関係でも、食事をするくらいは許されるだろう。

 いくらか悩んだものの、気持ちは単純明快で、揺るがなかった。

 それからは目まぐるしく日々が過ぎた。

 日々の雑務に、ルーカスの業務の調整、国境までの旅程や施設、旅装備の確保など。

 出立は20日と定まり、現地の第3隊に報せを出したのが3日前。

 しかし、その翌日には急遽視察にオリヴィエも駆り出されることになった。

 聖女リリアたっての希望で、ルーカスに同行する運びとなったのだ。

 クレバスの調査には、聖女との関連を探る目的もあったため、聖殿からも許可が降りたそうだ。

 最初はルーカスを含め2・3名で視察する予定だったが、聖女の存在をあらかじめ周知するためにも良い機会だとされ、大々的な視察に目的が変更された。

 そのため、同行するメンバーも再編成され、行程にも配慮がされた。

 ボッカ行きの時のような強行軍ではない。

 途中できっちり、3か所に宿を取る。各所で領主との会談も予定されている。

 視察と、聖女のお披露目を兼ねた大掛かりなものだ。

 気心の知れたイレーネが侍従として、付き添いのメンバーに選ばれた。

 その女性2人の護衛役に、白羽の矢が立った人物がオリヴィエだ。

 何故? などと推測するまでもない。

 女の事情にも気が回り、腕の立つ騎士が護衛に適している。

 女性の護衛なら女性が一番だろう。との分かり易い理由からだ。

 騎士団にはオリヴィエの他に女騎士は在籍していない。

 実際には、女性の騎士が誕生していることも世に知らしめる狙いもあるらしい。

(大丈夫。……これは、任務よ。対象は聖女様。大丈夫、できるわ)

 オリヴィエは、聖殿に向かう馬上で、自身に言い聞かせた。

 いつかこんな日が訪れると、分かっていた。覚悟の上で、聖騎士になった。

 それが予想外に早まっただけだ。
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