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聖女

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 ベッドに放り投げて、身に着けている物をバサバサと潔く脱ぎ捨てる。

 シャツのボタンを留めて、トラウザーズを穿いて腰紐を巻く。

 鏡を見ながらタイや細々した小物で身形を整えていると、騒々しい足音が近づいて来た。

 それを追うように、足音が増える。誰かに呼びかける声も追加された。

 管理棟には隊長クラスの団員の部屋しかない。

 通常は閑散としていて、物音一つない。

 不審さにルーカスは手を止めた。

「ルーカス様。起きてます? いらっしゃったら開けてくださいな」

 ノックと共に張りのある声が響く。

 来訪者はリリアだ。

「どうした? ここは関係者以外立ち入り禁止の建物だ」

「おはようございます。ルーカス様!」

 施錠を解くと、勢いよく扉が開かれる。次いで、勢いのままリリアが飛びついてくる。

「会いたかったんです。ルーカス様に。それに、私ももう、関係者でしょう? ルーカス様の婚約者なんだから」

「は……!?」

 ルーカスは呆然として、リリアを受け止めた。

 婚約者――確かに、その予定ではある。しかし、まだ正式な公表に至っていない。

 その様なしきたりを、まだリリアは知らないのだろうか。

「――あー、その件だが、リリアは確かに聖女に選ばれた。それは紛れもないが、俺たちが婚約者となるのは正式に公示されてからだ」

 胸に縋りついたリリアを、丁重に引き剥がす。

 懐き、慕ってくれる姿は好ましい。

 生い立ちには同情するし、健気さにも好感が持てる。

 だが、当然ながら、リリアを未来の妻としては見られない。

 現在のリリアが幼いからだろうか。

 女として心惹かれる傾向もない。

 リリアに好意を持たれては困る。

 最悪の場合はオリヴィエと共に逃亡しようと覚悟した、今となっては余計にだ。

 それよりも、オリヴィエに会いたい。

「そんなに固いこと言わないでください。私は今すぐにでもルーカス様のお嫁さんにしていただきたいのに」

 リリアが一歩も引かない。それどころか、ぐいぐいと詰め寄ってくる。

「未婚の娘が、男の部屋に平気で入るものではない」

 部屋まで乱入するつもりか。と後退りたい気持ちは一杯だが、部屋に2人きりはもっと避けたい。

 どうしたものかと考えあぐねていると、追手が姿を現わした。

「リリア、駄目よ。待ってと頼んだのに……。すみません、団長。団長に面会の申し込みがあって、受付に呼び出されたんですけど、制止が間に合わなくて」

 小走りで到着したのは、オリヴィエだった。

 ルーカス付きの補佐官はオリヴィエだ。

 ルーカスが自室に籠っていたため、オリヴィエが呼ばれたのだろう。

 会いたいとは願っていたが、このタイミングはよろしくない。

 目が合うと、オリヴィエは一瞬、何かを訴えかけた。
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