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聖女
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国を護り、民を導く意味を見出した。
オリヴィエを護り、幸せに導くことこそが生きる目的となった。
一方で、オリヴィエこそが聖女だと固く信じた。
聖殿での出会いは運命だと――
一度ならず、二度目の失望は耐え難い。
聖騎士団は今や最強の部隊だと自負がある。
だが、聖女が不要だと証明できてはいない。
せっかく、ここまで積み重ねて来たのに。
やっと……オリヴィエを食事に誘えたのに。
日取りを決める前に取り返しのつかない事態に陥った。
この状態で、どの面下げて愛を告白できる?
マダムグレアと 子爵の諮問は進んでいるが、組織については全容が解明されていない。
有罪と判決が下りれば、堂々と締め上げが可能だが、今は遅々として進まない。
……だが、それもこれも、どうでも良かった。
もう、何を励みに頑張れば良いのかわからない。
オリヴィエの部屋は壁を隔てて隣だというのに、彼女には永遠に触れられないのだろうか。
(いや、いっそのこと)
地位も職務も、一切を投げ打って、オリヴィエを攫って逃げる手もある。
仮令オリヴィエが拒絶しても、連れて行く。
(無理にでも、妻にしてから、じっくりと口説き落とせばいい。身体さえ繋いでしまえば、いつかは情も湧く。そのうち子供ができれば、オリヴィエはその子を、ひいては父親の俺にも、愛を向けてくれるだろう)
ルーカスは淡い幸福を夢想した。
オリヴィエと2人の子供。
家族で囲む食卓と笑顔を。
……だが、それでは、オリヴィエの幸福は限定される。
独りよがりの幸福に、ルーカスは自嘲して、首を振った。
家族とは引き離され、二度と会うことも叶わない。
健全な愛とは、かけ離れている。
(……相当、病んでるな。少し頭を冷やすか)
凝り固まった思考を解すために、立ち上がる。
まだ、打つ手は……きっとある。
幸い、リリアはまだ14歳。正式な結婚まではあと2年ある。
アリシア国の法律では、女性の成人は16歳と決められている。
それまでに必要な教育を受ける予定だ。
逃げるのは、最後の手段だ。
全ての手を使い尽くして、それでもどうにもならなければ、或いは。
そこまで考えたら、少しだけ頭が軽くなった。
どちらにしても今、自分が取るべき行動が見えた。
やはり、一刻も早くオリヴィエに気持ちを伝えることが先決だ。
その上で、オリヴィエの気持ちをルーカスに向ける。確固たる絆を結び直そう。
(本当なら、美味い食事でもご馳走して、と考えていたが)
クローゼットを開いて、騎士服を探す。
もう、一刻も猶予がない気がした。
ここで腐っていた時間も惜しむべきだった。
「ああ、あった」
騎士服一式は、クローゼットのいつもの場所に掛けられていた。
オリヴィエを護り、幸せに導くことこそが生きる目的となった。
一方で、オリヴィエこそが聖女だと固く信じた。
聖殿での出会いは運命だと――
一度ならず、二度目の失望は耐え難い。
聖騎士団は今や最強の部隊だと自負がある。
だが、聖女が不要だと証明できてはいない。
せっかく、ここまで積み重ねて来たのに。
やっと……オリヴィエを食事に誘えたのに。
日取りを決める前に取り返しのつかない事態に陥った。
この状態で、どの面下げて愛を告白できる?
マダムグレアと 子爵の諮問は進んでいるが、組織については全容が解明されていない。
有罪と判決が下りれば、堂々と締め上げが可能だが、今は遅々として進まない。
……だが、それもこれも、どうでも良かった。
もう、何を励みに頑張れば良いのかわからない。
オリヴィエの部屋は壁を隔てて隣だというのに、彼女には永遠に触れられないのだろうか。
(いや、いっそのこと)
地位も職務も、一切を投げ打って、オリヴィエを攫って逃げる手もある。
仮令オリヴィエが拒絶しても、連れて行く。
(無理にでも、妻にしてから、じっくりと口説き落とせばいい。身体さえ繋いでしまえば、いつかは情も湧く。そのうち子供ができれば、オリヴィエはその子を、ひいては父親の俺にも、愛を向けてくれるだろう)
ルーカスは淡い幸福を夢想した。
オリヴィエと2人の子供。
家族で囲む食卓と笑顔を。
……だが、それでは、オリヴィエの幸福は限定される。
独りよがりの幸福に、ルーカスは自嘲して、首を振った。
家族とは引き離され、二度と会うことも叶わない。
健全な愛とは、かけ離れている。
(……相当、病んでるな。少し頭を冷やすか)
凝り固まった思考を解すために、立ち上がる。
まだ、打つ手は……きっとある。
幸い、リリアはまだ14歳。正式な結婚まではあと2年ある。
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それまでに必要な教育を受ける予定だ。
逃げるのは、最後の手段だ。
全ての手を使い尽くして、それでもどうにもならなければ、或いは。
そこまで考えたら、少しだけ頭が軽くなった。
どちらにしても今、自分が取るべき行動が見えた。
やはり、一刻も早くオリヴィエに気持ちを伝えることが先決だ。
その上で、オリヴィエの気持ちをルーカスに向ける。確固たる絆を結び直そう。
(本当なら、美味い食事でもご馳走して、と考えていたが)
クローゼットを開いて、騎士服を探す。
もう、一刻も猶予がない気がした。
ここで腐っていた時間も惜しむべきだった。
「ああ、あった」
騎士服一式は、クローゼットのいつもの場所に掛けられていた。
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