上 下
87 / 140
陰謀

11

しおりを挟む
「街を歩くのにも、格式のあるお店に入るのにも、どちらにも着ていけるようなワンピースはありますか」

 できればこの女性に見立てて欲しい。

 オリヴィエはそんな気持ちを込めて、店員に尋ねた。

「そういうことでしたら……かしこまりました。少々お待ちください」

 店員も、オリヴィエの要望を真摯に受け止めてくれたらしい。

「そっか、そう言う風に伝えれば良かったのね」

 リリアは少し、照れくさそうに微笑んだ。

「一番可愛いものを選んでくれようとしたんでしょ。ありがとう」

 店員が数着を持参して、提示してくれる。

 その中から選んだ一枚を試着して、即決した。

 それはこの店のテイストにぴったりデザインだ。

 愛らしい薄桃色の生地の、襟元と袖口にレースと、裾にフリルのあしらわれたワンピースだった。

 しかし、ふんわりと広がるパニエではなくすっきりとしたシルエットのため、幼い印象にもならず、上品に仕上がっている。

 そのままの姿でオリヴィエとリリアは店を出た。

 お目当てのカフェに入り、クリームたっぷりのスイーツを堪能した。

 イレーネの分もお土産用に包んでもらい、足の向くままに商店街を歩く。

 気がつけば日が傾きかけていた。

 リリアはまだ物足りない様子だったが、通りすがりの店にある時計を見て、察したらしい。

「ありがとう、オリヴィエさん! こんなに楽しい一日は初めてだったわ」

 帰りの馬車でもリリアは始終笑顔で、オリヴィエも釣られて笑顔になった。

「私もよ、リリア」

 リリアと過ごした一日は、オリヴィエにとって、とても充実した一日だったと言える。

 少し気後れする部分もあったが、慣れてくると楽しかった。

 天真爛漫なリリアを見ていると、不思議とこちらまで楽しくなる。

 リリアが、オリヴィエの手をぎゅっと握りなおした。

「あのね、オリヴィエさん。私、王都に来て良かったわ」

「そう。それはよかったわね。後で会ったら団長にも良くお礼を言うのよ」

「もちろん! レヴァンシェル様が許可してくれたんだもの。レヴァンシェル様って、本当に素敵な男性ひとね! 格好良くて、憧れちゃう」

 リリアはうっとりとした表情で宙を見つめた後、オリヴィエに視線を戻して言った。

 不意に、どきっ、と鼓動が跳ねる。

 何の根拠もないのに、良くない前兆のような不安に襲われた。

「レヴァンシェル様って、やっぱり貴族なの?」

「え……そうね、貴族みたいなものかしら……」

 レヴァンシェルと呼ばせている以上、本当の身分はまだ明かせない。オリヴィエは言葉を濁す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...