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陰謀

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「何のお話しだったの?」

「その、今後の予定について、大したことじゃないわ」

 オリヴィエは適当に濁すと、リリアの肩を押して、回れ右をさせる。

「本当に? オリヴィエさん、何だかとっても嬉しそうだけど?」

「そりゃ、勤務中なのに美味しいものを食べてきていいって言われたら、嬉しくなるわ」

「ふうん?」

 リリアは怪訝そうにオリヴィエを見上げた。

 少しきつめにつり上がった目尻に、ふっくらした頬がまだあどけない。

 14歳なら平均的かもしれないが、身長はオリヴィエと顔一つ分くらいの差があって、まだ可愛いものだ。

 今日は聖殿に身を置くのに相応しい、清廉な白いワンピースを身に着けている。

「リリアが見かけたお店ってどこ? ここから近いなら歩いて行くけど、遠いなら馬車を用意するわ」

「うーん。それが、どこなのかまで覚えていないなぁ。ここに来るまでに馬車で通った、大きな通りよ。わかるかな?」

 昨日王都へ入ってから聖殿への道のりで、商店が軒を連ねるような大通りは2本だった。

「それじゃ、近くで辻馬車を拾いましょう。近い方から、通りがわかったら、見物をしながら歩けばいいわね」

「嬉しいな! 私、一人っ子だったから、お姉ちゃんとお出かけみたいで、嬉しい」

 リリアはにこにこっ、と屈託のない笑顔を浮かべるので、オリヴィエも嬉しくなる。

「私も、兄が1人だけだから、妹みたいで嬉しいわ」

「え? 本当に? そんな風に見えない」

 リリアは、目を丸くして足を止めた。

「兄も騎士団に所属していて、今は遠いところへ遠征に行っているの」

「ええ!? じゃあ、オリヴィエさんはお兄さんを追って騎士団に入ったの?」

「……まあ、それもないわけではないけれど」

 本当の理由は、込み入っているし恥ずかしいのでとても話せない。

「私、前回の聖女の選定式で落選してから、国を守るために何ができるかって考えたの。それで」

 要所をかいつまんで、当たり障りのないよう話す。

 騎士団に入団する者は、だいたいが国や民を守るという志を持って入団している。

 聖女を目指していたなんて言ったら、驚かれるし、揶揄われることもあるだろう。

(特に……ルーカスの傍にいたかった、なんて言えないわ……)

 リリアには悪いが、自分の動機は隠しておきたかった。

「そうなんだ。オリヴィエさんは真面目ね」

 リリアは目を、ぱちぱちと瞬いた。

「真面目というか、他に方法が思いつかなくて」

 リリアの、納得いかない様子を見て取って、理由付けに若干無理があったかもと反省する。

「そんな考え方ができるなんて素敵ね。イレーネはよく言わないけど、私の持ってる貴族のイメージはオリヴィエさんそのものだわ。やっぱり、憧れちゃう」

 リリアは納得したのか、再び足を動かした。
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