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陰謀

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「レヴァンシェル様、私はこれでも14歳なんです。そんなに子供扱いしないでください」

「ところで、イレーネは……? 見当たりませんが」

「イレーネは少々身体が怠いようだから、今日は一日休ませることにした。それなのにこっちは元気が有り余って、困ったものだ。俺から見れば、充分子供だよ、お前たちは」

 ルーカスの揶揄いに、リリアは頬を膨らませる。

(イレーネが寝ているのに、リリアだけ……連れて出るの……?)

 以前感じた、正体不明の黒っぽい感情が再び頭をもたげる。

 正体は不明だが、良くないものだと察知して、オリヴィエは咄嗟に頭を振った。

「どうしたの? オリヴィエさん」

(何を動揺しているの。団長の指示なんだから。それに、昨日あんなことがあったのだもの。少しでも元気づけてあげたいと思うのは当然だわ)

 マダムグレアたちが到着すれば、裁判沙汰で忙しくなるのは目に見えている。

 だから、余裕がある今なら、少しは楽しむ時間を取ってやれると考えての配慮だろう。

「何でもないの。リリアは何が好きかしら。私は、稽古ばかりであんまり街や流行に疎いから……どこへ連れて行ってあげれば良いでしょうか?」

「そうだな、普通は王都へ観光に来るなら聖殿を訪れるものだが、それなら用が済んでいる。甘いものでも食べてきたらどうだ。女は好きだろう」

「オリヴィエさん! それなら、私行ってみたいお店があるの。昨日、帰り道で見かけて、とっても美味しそうで――」

 女は、と、ルーカスの意見はやや暴論気味だったが、リリアは食いついた。

「じゃあ、決まりね。ただ、待たせておいて悪いけど、街へ出る前に一度騎士団の寮へ寄っていいかしら? 街に出る前に着替えたいの」

 リリアは同意する。

「これでひと安心だ。オリヴィエ、……ちょっと」

 ルーカスは数歩身を引くと、更にリリアと距離を取るように後退しながらオリヴィエに手招きをする。

 リリアは秘密の香りに興味を惹かれたが、流石に仕事関係の機密事項かとその場に留まる。

 ルーカスはテラスの扉を閉めたところで、こっそりとオリヴィエに皮袋を手渡した。

 受け取った手触りで中身が貨幣だと分かる。

「これ……」

「悪いな、急に付き合わせて。必要なものはこれで用立ててくれ」

 オリヴィエは自分で買い物をした経験があまりない。

 中身がどれほどの価値を持つかわからないものの、手ごたえはずっしりとしている。

 随分と沢山の金貨が詰め込まれているのだろうと予想できる。

「もし、着替えるつもりなら、途中の店で買って、着替えろ。それで足りなければ、その袋の紋章を見せれば大抵の店でツケがきく」
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