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陰謀

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「立派な貴族で、何も不自由なさそうなのに。何故、わざわざ危険な任務に……」

「えっ? オリヴィエさんは、貴族なの?」

 オリヴィエは戸惑った。秘密にするつもりもないが、この流れでリリアに明かすのは、良策とはいい難い。

「貴族も何も、知らない人はいないくらいの名門よ。末端貴族の私だって聞いたことがあるんだもの」

「そうなの!? どうりで、綺麗だし、いい匂いがすると思った。手も柔らかいし。そっかぁ、オリヴィエさんはお姫様だったのね」

 しかし、リリアは気を害した風でもなかった。

 むしろ好意的な眼差しを、オリヴィエに向ける。

 オリヴィエはどこから訂正すればいいか、悩む。

「あの、リリア。お姫様とは、違うわ……。それとイレーネ、私を様と呼ぶ必要はないのよ。私は、単なる騎士団の一員なんだから、オリヴィエと呼んで。私、貴女たちと仲良くなりたいの」

「そうは言っても、礼儀というものが」

「嬉しい! 私も、仲良くして欲しいです。いいじゃない、イレーネ。本人がいいって言ってるんだから」

「もう、本当に子供なんだから。社交辞令ってものを知らないの?」

「何よ。いつもそうやって人を子ども扱いするけど、一つしか違わないじゃない」

「年は、一つでも二つでも違うのよ。貴女なんかまだまだ子どもだわ」

 イレーネは、リリアをたしなめた。

 どうやら2人は普段からこのような関係性らしい。

「どうやら緊張も随分解けたようだな。後はオリヴィエに任せるとしよう。俺はセルゲイと交代する。お前たちも少しは休んでおけ。でないと身が持たないぞ」

 ルーカスが幌から出たので、オリヴィエは畳んであった毛布を配る。

「そうね。昨晩は眠れなかったし、気持ちは落ち着かなくても身体は疲れているでしょう。寝心地はよくないけど、これに包まれば少しはましよ」

「ね、オリヴィエさん。レヴァンシェル様って、王子様のようですね」

 リリアは幌の外を指さして、同意を求めた。

(王子様みたい、って意味よね、これ)

 みたい、ではなくて、ルーカスは本物の王子様だ。

 だが、リリアには”レヴァンシェル”と名乗っているようだし、騎士団の面々も”団長”としか呼んでいない。

 了承を得る前に、オリヴィエから伝えるべきではないだろう。

「リリアには、王子様のように見えた? 怖いとは思わなかったの?」

「最初は、素敵な人だな。でも、私とティメオ、2人もいっぺんに指名するなんて変な人かも、怖いなって気持ちもあったんですけど……」

(!!??)

 衝撃の新事実だ。

 娼館で少女2人を一度に部屋に呼ぶなんて。

 考えがあった上での行動に違いない。だが、ちょっぴり外聞が悪い。
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