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娼館の制圧
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素人に負けるはずがない。力が足りないせいか、と更に力を込める。
「ぐがが……」
「武器を放しなさい!」
どうにも手放さないので、全身の体重を乗せて、男の関節を本来と逆の方向に折り曲げた。
「オリヴィエか!?」
「人質を保護しろ!」
背後から聞き覚えのある声が上がる。
「おぎぃ」
ぐぅっ! と渾身の力で肘を押し込むと、ごきん。と鈍い震動が伝わった。
男は激痛に悶絶した――が実際には抑え込まれているので、大した動きにはならない。
ただし、身体は痙攣した。
すっと力が抜けて、武器が手から離れる。
「あっ、しまった……」
口から泡を吹いている姿を確認して、オリヴィエは慌てて体を放した。
オリヴィエが解放しても、男は叢に横になったまま動かなかった。
肘が本来と逆の向きに折り曲げたまま、ぴく、ぴく、と時折体が震えている。
(骨までやってしまったわ……)
オリヴィエは内心で冷や汗を流す。
力加減を誤ったようだ。
「あ……あぁ……」
支えを失った女はふらふらと後退り、膝から崩れ落ちた。地面にへたり込んで、自分の肩を抱きしめる。
「怪我はないか?」
騎士団の一人、紅眼のデメトリオ・アルボルが駆け寄って、女の肩に手を置いた。
「はい……っ! ありがとうございます……!!」
デメトリオは団員きっての伊達男だ。縋る女性を優しく宥めながら、オリヴィエまで気遣う余裕ぶりを見せた。
「オリヴィエ、でかしたな。今のうちに拘束しろ」
「あっ、向こうに置いてきてしまいました。気絶しているようなので、取ってきます」
「駄目だ。油断するな。これを、使え」
デメトリオは小さな糸巻きを取り出した。
常に携帯しているとは、準備が良い。
男の肘に関しては心が痛むが、無用な抵抗をして人質を危険に晒したので、手打ちとしよう。
気持ちそっと腕を持ち上げて、後ろ手にして親指同士を結束した。
「できたなら、交替しよう。そいつの始末は俺がするから、この子も連れてってくれ。他の子も保護しているんだろう」
「まだそこに待たせています。もう、大丈夫だから、一緒にいきましょう。立てる?」
オリヴィエは、人質だった少女に声をかけた。
少女は震えながら立ち上がるが、一度膝をついたせいで上手く歩けないらしい。
肩を貸して歩き出した。
「あの、……何が起きたのか、まだ、良く分からないのですが……貴女方は」
「私たちは王都から派遣された聖騎士団よ。ギャレットで違法な取引が行われていると、報告を受けて調査しに来たの。詳しい処遇はまだわからないけど、貴方たちの身柄は騎士団が保護するから、安心して」
「騎士団……? 女の人なのに?」
もう何度目かになった質問に、オリヴィエは微笑した。
「ぐがが……」
「武器を放しなさい!」
どうにも手放さないので、全身の体重を乗せて、男の関節を本来と逆の方向に折り曲げた。
「オリヴィエか!?」
「人質を保護しろ!」
背後から聞き覚えのある声が上がる。
「おぎぃ」
ぐぅっ! と渾身の力で肘を押し込むと、ごきん。と鈍い震動が伝わった。
男は激痛に悶絶した――が実際には抑え込まれているので、大した動きにはならない。
ただし、身体は痙攣した。
すっと力が抜けて、武器が手から離れる。
「あっ、しまった……」
口から泡を吹いている姿を確認して、オリヴィエは慌てて体を放した。
オリヴィエが解放しても、男は叢に横になったまま動かなかった。
肘が本来と逆の向きに折り曲げたまま、ぴく、ぴく、と時折体が震えている。
(骨までやってしまったわ……)
オリヴィエは内心で冷や汗を流す。
力加減を誤ったようだ。
「あ……あぁ……」
支えを失った女はふらふらと後退り、膝から崩れ落ちた。地面にへたり込んで、自分の肩を抱きしめる。
「怪我はないか?」
騎士団の一人、紅眼のデメトリオ・アルボルが駆け寄って、女の肩に手を置いた。
「はい……っ! ありがとうございます……!!」
デメトリオは団員きっての伊達男だ。縋る女性を優しく宥めながら、オリヴィエまで気遣う余裕ぶりを見せた。
「オリヴィエ、でかしたな。今のうちに拘束しろ」
「あっ、向こうに置いてきてしまいました。気絶しているようなので、取ってきます」
「駄目だ。油断するな。これを、使え」
デメトリオは小さな糸巻きを取り出した。
常に携帯しているとは、準備が良い。
男の肘に関しては心が痛むが、無用な抵抗をして人質を危険に晒したので、手打ちとしよう。
気持ちそっと腕を持ち上げて、後ろ手にして親指同士を結束した。
「できたなら、交替しよう。そいつの始末は俺がするから、この子も連れてってくれ。他の子も保護しているんだろう」
「まだそこに待たせています。もう、大丈夫だから、一緒にいきましょう。立てる?」
オリヴィエは、人質だった少女に声をかけた。
少女は震えながら立ち上がるが、一度膝をついたせいで上手く歩けないらしい。
肩を貸して歩き出した。
「あの、……何が起きたのか、まだ、良く分からないのですが……貴女方は」
「私たちは王都から派遣された聖騎士団よ。ギャレットで違法な取引が行われていると、報告を受けて調査しに来たの。詳しい処遇はまだわからないけど、貴方たちの身柄は騎士団が保護するから、安心して」
「騎士団……? 女の人なのに?」
もう何度目かになった質問に、オリヴィエは微笑した。
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