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娼館の制圧

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 布を巻きつけ、解けないように後頭部で結ぶ。

「俺たちは王都から来た、聖騎士団だ。幼い娘の誘拐事件を追っている。知っていることを話してくれ。お前たちは金と引き換えのようだが、他に攫われてきた娘はいるか」

 リリアが、はっとルーカスを見上げる。

 こくり、と首是を示す。

 真偽はさておき、抵抗する気はないらしい。

 ルーカスはセルゲイに目配せした。

「この館に、従業員は何人いる? 娼婦たちのいる部屋は?」

 セルゲイは押さえているティメオを屈ませて、2人の前に、簡易の見取り図を広げた。

「書いてみろ」

 懐から、携帯用のペンを取り出して、リリアに持たせた。

 リリアは、恐る恐るペンを動かす。

 受付、1、厨房、2、控室、4……大体の場所に、部屋の用途と人数を、次々と書き込んでいく。

(貧しい家の出身だと聞いたが、驚いたな)

 綴りは所々間違っているが、意味は伝わる。

 出自の話が事実なら、リリアはここへ来てから文字を学んだのだろう。

 背後で暗躍している組織が何者かはわからないが、計画の本気度が垣間見える。

 貴族と養子縁組を企んで一儲け。――ひいては、王室への介入を試みている。

 どんな規模で行われている目論見かはわからないが、アリシア国の国土は広い。

 全国で段階的に計画を進められたら、国教会も騎士団も追い切れない。

 よくできた計画だ。

 手のかかった少女の中から聖女が出なくても、組織は娼館に商品を卸しただけで、損にはならない。

 割を食うのは娼婦に堕とされた少女たちだけだ。

「セルゲイ、計画は変更だ。ギャレットだけを潰しても、どうにもならない。マダムクレアと、フェルナンド子爵を秘密裏に王都へ招聘する」

「……では、ギャレットは制圧ですね。少女たちはオリヴィエに保護させますか」

「そうしよう。他の者は捕らえて、リュート領へ引致だ」

「んんっ」

 リュート領、と聞いてリリアは反射で首を振った。

「よほど帰りたくないようだな。養子を餌に連れて来られた娘は、実家へ帰してやるつもりでいたが、嫌なら別の道を考えてやる」

 ルーカスは警戒を続けながらも、リリアの隣に屈む。

「お前には酷な話だが、養子の話はお前らを丸め込むための甘言だ。諦めて俺たちと来い」

 自分の見出した希望を、肯定したかったのだろう。

 リリアはキッ、とルーカスを睨んだ。

 しかし、その瞳に、見る間に涙が溢れる。

「悪いようにはしない。ここはどのみち今日で潰れる」

 ルーカスはリリアの頭に掌を乗せた。

「俺たちを密告するなら、それもいい。……ただしその時は、引致されるはずの人間が、ここで処刑されるだろう。私たちはあくまで、軍人であって聖人じゃない。裁判にかけてやるだけでも、温情のつもりだ」
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