70 / 140
娼館の制圧
8
しおりを挟む
「レヴァンシエル様」
ルーカスが黙っていると、リリアは、ルーカスの手の甲に頬をすり寄せる。
上目遣いでこちらを窺う目に、熱を帯びた情愛があった。
これも教育の賜物か。
教育係に仕込まれたのだろうか? それとも、リリアなりの努力の証か。
「リリ……」
ルーカスは息を呑んだ。
リリアの唇が、そっと手の甲に押し当てられる。
その感触を味わう前に、手をのけた。
「止すんだ。そんなことをする必要はない」
リリアはキョトンとした目で、ルーカスを見つめ返す。
「どうして?」
ルーカスは内心で動揺した。
頭では、これくらい何でもないと、わかっている。
娼館への潜入も、任務の内だ。サービスを受けるのも、その延長だ。
現に団員たちは喜び勇んで潜入している。
流石に……潜伏先で無防備な姿をさらして身動きが取れなくなっているような愚か者は、……いないと信じている。
だから手の甲くらい、どうともないはずだ。
だが、身体が拒否していた。
リリアが幼過ぎるせいか。
「私何か、失礼をしましたか……?」
いや、違う。
年齢は関係ない。だが、後ろめたい気持ちがある。
ふと、脳裏を、レティーの面影が掠めた。
この任務が終わったら、オリヴィエに愛を打ち明けるつもりだからだ。
自然と湧き上がる抵抗を、抑え込めない。
「違う。その前に、もう一杯お茶を貰おうと思って」
ルーカスが慌てて立ち上がると、その拍子に膝がぶつかり、卓子が揺れた。
「あ。レヴァンシエル様、お膝に……」
今度はティメオが、反対側に跪いた。
布巾を脚に押し当てる。
「いい、自分でできる」
不測の事態に、ルーカスは一層混乱を極めた。
「いけません、レヴァンシエル様。私たちの仕事です」
ティメオは強引にルーカスの脚に触れると、汚れを拭き始める。
緊張することなくルーカスに触れられるようになったのは、良い傾向だ。
少しでも心が解れている証拠だ。
だが、こんなことなら、もう少し脅かしておいても良かった――
と、ルーカスが後悔した瞬間だった。
くっく、と忍び笑いが部屋に入り込む。
そのお陰でルーカスは、不本意ながらいつもの自分を取り戻した。
「……見てるなら、手伝え」
きぃ……
僅かに枠が軋む。
すーっと開いた窓から吹き込んだ風にカーテンが揺れる。リリアとティメオの目がそちらへ向けられた。
その隙に、ルーカスとセルゲイは二人の背後に回り込んだ。
と、悲鳴が上がる前に、二人の口を素早く布で覆った。
「んっ」と苦しげな声が上がる。
「手荒な真似をして済まない。俺たちは客じゃないんだ。だが、お前たちに危害を加えるつもりはない。口だけは塞がせてもらうが、話を聞け」
ルーカスは二人に鋭く言い含める。
2人は訳が分からないながらも、こくこくと頷いた。
ルーカスが黙っていると、リリアは、ルーカスの手の甲に頬をすり寄せる。
上目遣いでこちらを窺う目に、熱を帯びた情愛があった。
これも教育の賜物か。
教育係に仕込まれたのだろうか? それとも、リリアなりの努力の証か。
「リリ……」
ルーカスは息を呑んだ。
リリアの唇が、そっと手の甲に押し当てられる。
その感触を味わう前に、手をのけた。
「止すんだ。そんなことをする必要はない」
リリアはキョトンとした目で、ルーカスを見つめ返す。
「どうして?」
ルーカスは内心で動揺した。
頭では、これくらい何でもないと、わかっている。
娼館への潜入も、任務の内だ。サービスを受けるのも、その延長だ。
現に団員たちは喜び勇んで潜入している。
流石に……潜伏先で無防備な姿をさらして身動きが取れなくなっているような愚か者は、……いないと信じている。
だから手の甲くらい、どうともないはずだ。
だが、身体が拒否していた。
リリアが幼過ぎるせいか。
「私何か、失礼をしましたか……?」
いや、違う。
年齢は関係ない。だが、後ろめたい気持ちがある。
ふと、脳裏を、レティーの面影が掠めた。
この任務が終わったら、オリヴィエに愛を打ち明けるつもりだからだ。
自然と湧き上がる抵抗を、抑え込めない。
「違う。その前に、もう一杯お茶を貰おうと思って」
ルーカスが慌てて立ち上がると、その拍子に膝がぶつかり、卓子が揺れた。
「あ。レヴァンシエル様、お膝に……」
今度はティメオが、反対側に跪いた。
布巾を脚に押し当てる。
「いい、自分でできる」
不測の事態に、ルーカスは一層混乱を極めた。
「いけません、レヴァンシエル様。私たちの仕事です」
ティメオは強引にルーカスの脚に触れると、汚れを拭き始める。
緊張することなくルーカスに触れられるようになったのは、良い傾向だ。
少しでも心が解れている証拠だ。
だが、こんなことなら、もう少し脅かしておいても良かった――
と、ルーカスが後悔した瞬間だった。
くっく、と忍び笑いが部屋に入り込む。
そのお陰でルーカスは、不本意ながらいつもの自分を取り戻した。
「……見てるなら、手伝え」
きぃ……
僅かに枠が軋む。
すーっと開いた窓から吹き込んだ風にカーテンが揺れる。リリアとティメオの目がそちらへ向けられた。
その隙に、ルーカスとセルゲイは二人の背後に回り込んだ。
と、悲鳴が上がる前に、二人の口を素早く布で覆った。
「んっ」と苦しげな声が上がる。
「手荒な真似をして済まない。俺たちは客じゃないんだ。だが、お前たちに危害を加えるつもりはない。口だけは塞がせてもらうが、話を聞け」
ルーカスは二人に鋭く言い含める。
2人は訳が分からないながらも、こくこくと頷いた。
5
お気に入りに追加
464
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる