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娼館の制圧

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「レヴァンシエル様」

 ルーカスが黙っていると、リリアは、ルーカスの手の甲に頬をすり寄せる。

 上目遣いでこちらを窺う目に、熱を帯びた情愛があった。

 これも教育の賜物か。

 教育係に仕込まれたのだろうか? それとも、リリアなりの努力の証か。

「リリ……」

 ルーカスは息を呑んだ。

 リリアの唇が、そっと手の甲に押し当てられる。

 その感触を味わう前に、手をのけた。

「止すんだ。そんなことをする必要はない」

 リリアはキョトンとした目で、ルーカスを見つめ返す。

「どうして?」

 ルーカスは内心で動揺した。

 頭では、これくらい何でもないと、わかっている。

 娼館への潜入も、任務の内だ。サービスを受けるのも、その延長だ。

 現に団員たちは喜び勇んで潜入している。

 流石に……潜伏先で無防備な姿をさらして身動きが取れなくなっているような愚か者は、……いないと信じている。

 だから手の甲くらい、どうともないはずだ。

 だが、身体が拒否していた。

 リリアが幼過ぎるせいか。

「私何か、失礼をしましたか……?」

 いや、違う。

 年齢は関係ない。だが、後ろめたい気持ちがある。

 ふと、脳裏を、レティーの面影が掠めた。

 この任務が終わったら、オリヴィエに愛を打ち明けるつもりだからだ。

 自然と湧き上がる抵抗を、抑え込めない。

「違う。その前に、もう一杯お茶を貰おうと思って」

 ルーカスが慌てて立ち上がると、その拍子に膝がぶつかり、卓子が揺れた。

「あ。レヴァンシエル様、お膝に……」

 今度はティメオが、反対側に跪いた。

 布巾を脚に押し当てる。

「いい、自分でできる」

 不測の事態に、ルーカスは一層混乱を極めた。

「いけません、レヴァンシエル様。私たちの仕事です」

 ティメオは強引にルーカスの脚に触れると、汚れを拭き始める。

 緊張することなくルーカスに触れられるようになったのは、良い傾向だ。

 少しでも心が解れている証拠だ。

 だが、こんなことなら、もう少し脅かしておいても良かった――

 と、ルーカスが後悔した瞬間だった。

 くっく、と忍び笑いが部屋に入り込む。

 そのお陰でルーカスは、不本意ながらいつもの自分を取り戻した。

「……見てるなら、手伝え」

 きぃ……

 僅かに枠が軋む。

 すーっと開いた窓から吹き込んだ風にカーテンが揺れる。リリアとティメオの目がそちらへ向けられた。

 その隙に、ルーカスとセルゲイは二人の背後に回り込んだ。

 と、悲鳴が上がる前に、二人の口を素早く布で覆った。

「んっ」と苦しげな声が上がる。

「手荒な真似をして済まない。俺たちは客じゃないんだ。だが、お前たちに危害を加えるつもりはない。口だけは塞がせてもらうが、話を聞け」

 ルーカスは二人に鋭く言い含める。

 2人は訳が分からないながらも、こくこくと頷いた。
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