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娼館の制圧

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 全室が客用とは限らないし、客の内の騎士団員が8人。

 しかも受付では満員だと、一度は門前払いを食らっている。

 現在、ギャレットの収容能力は上限に達しているだろう。

 階段を上がる途中で1人の従業員とすれ違った。

 上がってすぐ傍には給仕用のワゴンが置かれている。

「お客様、こちらでございます」

 ルーカスが案内されたのは、2階の一番奥まった場所にある部屋だった。

「当館の、一番上等なお部屋になります」

 部屋に通されると、ルーカスは素早く部屋全体を見回した。

 内部は40平米ほどだろうか。

 四隅にには蠟燭台に火が灯されており、薄暗いながらも一室を見渡せる。

 ソファに天蓋付きのベッド、小さなカウンターまである。

 広々とした作りになっており、王都のホテルに引けを取らない。

 だが、窓の外には、おそらく鉄製だろう錠前が取り付けられている。

「只今、お望みの娘をお連れします。その際はこちらのほうで外から扉を施錠しますから、御用の際にはそちらのベルをご使用ください」

「客を閉じ込めるとは、とんでもない仕組みだな。誰の考案だ?」

 ポールは説明しながらルーカスに椅子を勧めた。ルーカスは腰を下ろすが、目は逸らさない。

「私の独断で、教育中の新人を店に出すわけですから……どうか、ご容赦を」

「ギャレットには気の利く管理人がいると、友人にも伝えておこう」

 ふ……と、ルーカスは口元に微笑を浮かべる。

「ごゆっくりお過ごしください」

 ポールが一礼をして部屋を辞すと、ルーカスは早速行動に移った。

 燭台の灯りでは心許ないが、2台を窓辺に寄せる。

 持ち込んだ手鏡の角度を操り、窓の外へ合図を送った。

 セルゲイは見逃すまい。何食わぬ顔でソファに腰かけると、ノックと共に扉が開いた。

「失礼します。お望みの娘を連れて参りました」

 ポールに続いて、小柄な少女が入室する。

 13歳に満ちているだろうか。

 香油で整えたのだろう。栗色の髪は薄明りの中でもわかるほど、艶を帯びている。

 肌は抜ける様に白くて、緊張しているのか表情は硬い。

 黒で統一されたドレスを纏い、胸元や肩口にはレースの飾りが付いている。

「ほら、ご挨拶をしなさい」

「いらっしゃいませ。お客様。ご指名下さり、ありがとうございます……」

 少女は覚えさせられた口上を、辿々しく口にする。

「一人だけか? 新人は一人じゃないだろう? 不慣れなほうが良いと言っても、あまり幼過ぎるのは好みじゃない」

「え?」

 ルーカスの注文に、ポールは眉をひそめた。

「せっかくだから、今いる見習いを皆連れて来られないか? もし複数気に入れば、人数分上乗せして払うが、どうだ」

 ルーカスはさも当然のように、ポールに提案する。

「そう言うことでしたら……」

 未熟な新米に経験を積ませ、客を取る機会を増やせる。

 そう踏んだポールは、ルーカスの提案に乗っかった。

 ポールは同意のために、ニヤリと口元を眇める。

 特異な性癖の客を、内心は侮蔑しているのかもしれない。
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