上 下
63 / 140
娼館の制圧

しおりを挟む
 事態は、オリヴィエの認識よりもずっと、早いスピードで動いていた。

 馬車に乗り込むと、セルゲイとは特に打ち合わせもなく、走り出した。

「どこへ、向かっているんですか?」

 行に出立した、リュートとは別の方角へ向かっている。

「先にセルゲイに言付けて、例の娼館――”ギャレット”に皆向かわせた。一先ずはそこで合流の予定だ」

「もう、場所までわかっているんですか」

「俺たちより先に、セルゲイたちのほうでも既に目星をつけていた。この一年の間に行儀見習いの名目で、年端も行かない娘を大勢雇い入れたらしい。目撃者も複数いる」

 オリヴィエは、行動の早さ・正確さに舌を巻いた。

 流石はアリシア国の守護を担う聖騎士団の精鋭だ。

「ここまで状況が揃ったんだ。ほぼ、黒だ。そこで……」

 ルーカスはそこまで口にして、急にくっと噴き出した。

「急に、何です。そこでどうしたんですか?」

「客の振りして潜入してろと指示したら、我先にと、全員喜び勇んで飛んで行ったそうだ」

 はっ? と、今度は目が点になる。

「今日の客入り次第では8人では不足かもしれない。だが、上手く行けばその新米たちを引っ張り出せる」

「攫われた娘たちに、相手をさせるおつもりなんですか……!?」

 オリヴィエは理解して、憤慨した。

 騎士団の先輩一同を見直したが、前言撤回だ。

 最近雇われた年端も行かない娘は、連れて来られた聖女候補だ。

 今年はまた、聖女選定が行われる。

 だから、その娘たちは13歳から15歳になる女児たちのはずだ。

 年長の15歳などは、オリヴィエとほとんど変わらないけれど……。

「接客の場に引き出せれば儲けものだ。そんなに目くじらを立てなくても、娼館に入ったからと言ってすぐにことに
及ぶわけじゃない。会話を楽しんだり、飲食の接待を受けたりするんだ」

 ハワードの情報を鵜呑みにしていたオリヴィエに、ルーカスは丁寧に訂正した。

 オリヴィエは自分の無知にまた、恥じ入る。

「そう、なんですか」

「それでも最後に待ってるサービスを思い描いて、男たちは楽しむわけだ。だから、とっとと乗り込んで、奴らをがっかりさせないとな」

 二転、三転。オリヴィエの知らない夜の世界と男の性は奥が深い。

 褒めたらいいのか、見下したらいいのか、自分の立ち位置が定まらない。

 普段は冷静で屈強な騎士たち、いずれもオリヴィエの上官に当たる8人が、鼻の下を伸ばして女性と会話する姿はあまり想像したくない。

 それに、ルーカスに夜の世界について説明を受けるのも、複雑な気分だ。

 常識なのかもしれないが、ルーカスも利用した経験があるのだろうか……。

 などと、疑いが頭をもたげてしまう。

 ルーカスや先輩方がそうなら、ひょっとしてクリストファーも……?

 などと、余計な部分にも考えが及ぶ。

 オリヴィエが閉口すると、ルーカスもオリヴィエの疑惑に辿り着いたらしい。

「んっ」とわざとらしく咳払いをして、話題を打ち切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...