将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

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舞踏会の裏側

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「何のつもりです。ベルモール様」

「男女が逢瀬に何をしているか、手取り足取り教えてあげるから。レティーは安心して、僕に身を任せていればいいんだよ」

 ハワードは、身体を撫で回すかのように何度も手を動かす。

 上品に振舞っても隠せない、荒くなった鼻息に、オリヴィエの背筋がぞくりと震えた。

(私、……勘違いしていたわ! この男は何も知らない!)

 この位置関係になって、ようやくオリヴィエはこの男が、単なる親切でも、何かを探りに近づいてきたのでもないことを理解した。

 ハワードは、オリヴィエを口説いている。

 それは、単なる恋人への睦言などではない。

 獲物を狙うケダモノの目だ。肉食獣の欲望がぎらぎらと光る瞳だった。

(この男、私に、いかがわしいことをしようと狙っていたのね……!)

 オリヴィエは、戦慄した。

 同時に、己のおめでたさを呪った。

「待って、私、そんなことは知りたくない」

 オリヴィエは、ハワードから逃れようともがいた。

「そんなに怖がらないでいいよ。すぐに気持ち良くしてあげる。君のフィアンセよりずっと……」

「ひっ、あ、やだ」

 首筋に顔を寄せられて、ぞっと肌が粟立った。

 この男が不埒な企みを抱いているなら、ここで引き回しても、ルーカスに報告すれば問題にはならないだろう。

 むしろ、それを理由にして、この無礼な男を断罪できるかもしれない。

 瞬時に決断し、この体勢からどうやって逆転するかに思考を集中させた。

 気色は悪いが、オリヴィエは、ただの非力な乙女ではない。

 何のためにこれまで、厳しい訓練に耐えてきたのか。

 だが、ハワードが首筋の皮膚を吸い上げたところで、オリヴィエは、反射で叫んでいた。

「嫌あっ」

 オリヴィエが発した拒絶の声と、ハワードの呻き声が上がるのとは、ほぼ同時だった。

 ハワードはオリヴィエの上から吹き飛んでいた。

 突風で吹き飛ばされるが如くに、勢いのまま、背後の幹に背を叩きつけた。

「ぐはっ」

 骨が折れたように仰け反り、ハワードは地に転がる。

 オリヴィエは、何事かと目を見張るだけですぐに動けなかった。目の前に誰かが、立ち塞がる。

 立ち塞がった人物は、右足を上げてハワードを威嚇した。

 日没直前の、しかも木陰だ。目ではその人物の輪郭すら捕らえられない。

 しかし、オリヴィエにはわかった。

「今すぐ死ぬのとタマを潰されるのと、どちらがいい」

 低い、地の底から響くような恫喝。

 ハワードは、呻き声も上げられないのか、身体を硬直させている。

(ルーカス……)

 オリヴィエは身の安全を悟って、ほっと脱力した。

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