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舞踏会

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 婦人らの言葉に、咄嗟に目を走らせると、会場のどこにも、オリヴィエの姿がない。

「レティーさん、先ほどベルモール公爵に声を掛けられて、肩を並べて庭園に出て行かれたわよ」

「あの方は百戦錬磨で、口がとってもお上手だから。初心な娘さんはひとたまりもないわ」

「レティーさん、社交場は初めてなのでしょう?」

 婦人らは次々とルーカスの不安を煽っていく。

「ありがとうございます。教えて頂いて、助かりました」

 ルーカスは軽く挨拶を済ませて、急いで会場から抜け出した。

(くそっ。迂闊だった)

「あら、お熱いこと。羨ましいわ~」

 女性陣との取り留めのない世間話に時間をかけ過ぎたようだ。

 オリヴィエが餌食になる隙を与えてしまった。

 くすくすと含み笑いを零す婦人らを尻目に、ルーカスは会場を後にした。




 ***




 パーティも開始から中盤に差し掛かり、オズワルド邸の周囲は薄暮に包まれた。

 招待客どうしも打ち解け、食事や飲み物を片手に、各人がパーティを楽しんでいる。

 オリヴィエは自らも輪に溶け込みながら、あることに気付き始めた。

 太陽が沈み始めてから、薄明かりの灯る庭園に消えて行く男女の姿がちらほらある。

「ちょっと、失礼します」

 オリヴィエは参加していたグループから外れ、窓辺に近寄った。

「あれは……」

 庭園の先、生け垣のすぐ傍に、小さな人影が見えた。

 それは、仲睦まじく語らう男女のようである。

 オリヴィエは目を凝らす。

 更に奥の噴水に。

 架けられた橋の下にも、男女の影。

 更に奥は……木々が密集する暗がりに消えたのか。

 後ろ姿が見えた気もするが、もう何も見えない。

 恋人たちがそっと連れ立って愛を囁くのか。

 とも、考えたが、すぐに違うと首を振る。

 そこまで確実ではないが、目撃した一組だけは、互いがパートナーではないと記憶している。

(確か……置時計の横でお話ししたクローネ婦人。ご主人はもう少し背中が丸くて、ご年配だったはず……)

 追って行って声を掛けてみれば、明らかになる。

 しかし、もしもご夫婦が並んで庭園を楽しんでいるなら、邪魔をするのも無粋だ。

「紳士淑女が、どこへ消えてゆくのか気になるのかな」

 いつの間にやら、見知らぬ男性がオリヴィエの背後までやって来ていた。

 目線はオリヴィエと同じ庭園を眺めている。

「え?」

「随分と初心なお嬢さんだね。お一人かい?」

 オリヴィエは、男性の問いに少し考え込んで、首を横に振った。

「いいえ、今日は婚約者と参加しておりますの。ただ、あちらが気になって」
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