将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

文字の大きさ
上 下
54 / 140
舞踏会

13

しおりを挟む
 婦人らの言葉に、咄嗟に目を走らせると、会場のどこにも、オリヴィエの姿がない。

「レティーさん、先ほどベルモール公爵に声を掛けられて、肩を並べて庭園に出て行かれたわよ」

「あの方は百戦錬磨で、口がとってもお上手だから。初心な娘さんはひとたまりもないわ」

「レティーさん、社交場は初めてなのでしょう?」

 婦人らは次々とルーカスの不安を煽っていく。

「ありがとうございます。教えて頂いて、助かりました」

 ルーカスは軽く挨拶を済ませて、急いで会場から抜け出した。

(くそっ。迂闊だった)

「あら、お熱いこと。羨ましいわ~」

 女性陣との取り留めのない世間話に時間をかけ過ぎたようだ。

 オリヴィエが餌食になる隙を与えてしまった。

 くすくすと含み笑いを零す婦人らを尻目に、ルーカスは会場を後にした。




 ***




 パーティも開始から中盤に差し掛かり、オズワルド邸の周囲は薄暮に包まれた。

 招待客どうしも打ち解け、食事や飲み物を片手に、各人がパーティを楽しんでいる。

 オリヴィエは自らも輪に溶け込みながら、あることに気付き始めた。

 太陽が沈み始めてから、薄明かりの灯る庭園に消えて行く男女の姿がちらほらある。

「ちょっと、失礼します」

 オリヴィエは参加していたグループから外れ、窓辺に近寄った。

「あれは……」

 庭園の先、生け垣のすぐ傍に、小さな人影が見えた。

 それは、仲睦まじく語らう男女のようである。

 オリヴィエは目を凝らす。

 更に奥の噴水に。

 架けられた橋の下にも、男女の影。

 更に奥は……木々が密集する暗がりに消えたのか。

 後ろ姿が見えた気もするが、もう何も見えない。

 恋人たちがそっと連れ立って愛を囁くのか。

 とも、考えたが、すぐに違うと首を振る。

 そこまで確実ではないが、目撃した一組だけは、互いがパートナーではないと記憶している。

(確か……置時計の横でお話ししたクローネ婦人。ご主人はもう少し背中が丸くて、ご年配だったはず……)

 追って行って声を掛けてみれば、明らかになる。

 しかし、もしもご夫婦が並んで庭園を楽しんでいるなら、邪魔をするのも無粋だ。

「紳士淑女が、どこへ消えてゆくのか気になるのかな」

 いつの間にやら、見知らぬ男性がオリヴィエの背後までやって来ていた。

 目線はオリヴィエと同じ庭園を眺めている。

「え?」

「随分と初心なお嬢さんだね。お一人かい?」

 オリヴィエは、男性の問いに少し考え込んで、首を横に振った。

「いいえ、今日は婚約者と参加しておりますの。ただ、あちらが気になって」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...