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舞踏会

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 今まで冷たく接していたのだから、それだけで大分印象は良くなるはずだ。

 上手く行けば、ルーカスに好感を抱いてくれる。

 そうして無事、任務が終了したら、思い切って告白しよう。

 ともかく、きちんと自分の中で期限を定める。

 でなければ、ずっと、ずるずると先延ばしになるだろう。

「行こうか、レイ」

 ルーカスは、エスコートに勤しんだ。

 セルゲイと合流し、馬車でボッカへ向かった。

 太陽が西の山へ傾き、薄暮を迎える頃、会場に到着した。

 予定通りだ。

 会場入りすると、こちらも案の定、注目を浴びた。

 招待客たちの視線だけではない。給仕人も警備の者も、皆ルーカスとオリヴィエに注目している。

 オリヴィエの美しさもさることながら、ルーカスの見目麗しさも、人を惹きつける。

「ようこそお越しくださいました! 初めてお目に掛かりますけど、なんてお美しいお2人かしら。まるで絵画を見ているようですわ」

 門を潜ると、次々と訪れるゲストを、主催のオズワルド夫妻が出迎えてくれていた。

「初めまして。ミシェル婦人。この度はお招きくださりありがとうございます。レティー・リュートと申します。こちらは婚約者の」

「レヴァンシエル・ゴーウェルです。以後、お見知りおきを」

「まぁ、素敵な名前ね。それに、声まで綺麗なんて、驚きましたわ。こんなにお美しいのに、お噂の一つも耳に入らないなんて」

 ミシェル婦人は無邪気にオリヴィエの手を握った。

「私、事情もあって、外国で暮らしておりましたの。アリシア国での社交界は初めてですわ。何かと行き届かないところがあるかと思いますので、どうぞご指導頂けますと幸いです」

「まあ」ゴシップ好きの貴族の婦人らしく、ミシェルの目がきらりと煌めいた。

 どうやら”事情”に食いついたらしい。

「どうりで、存じ上げないわけですわ。何でも聞いてくださいね。私にできることでしたら、お力になりますわ」

 無邪気を装って、レティーの内情を探ろうとしたミシェルは、たちどころにオリヴィエの手中に収まった。

 貴族のご婦人方は、上流階級の内情通が大好きだ。

 リュート伯の孫娘、レティーに隠された事情に、大いに関心を持った。

(やるじゃないか)

 ルーカスは、オリヴィエの堂々たる演技に、感心した。

 パーティの主催者であるオズワルド夫人の懐に入れば、随分と仕事がしやすくなる。

「ではまた後ほど。楽しんでいらしてね」

 オリヴィエとルーカスは並んで会釈を返し、他の客人を迎えに戻るミシェルを見送った。

「私も知らなかったな。レイはどうして外国で育ったんだ?」

 ルーカスは、面白半分と情報の共有を目的にオリヴィエに尋ねた。
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