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舞踏会

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 薄紫の生地はよく見るとよく見ると細やかな刺繍が施されていて、彼女の美しさがより一層際立つ。

 いつも、邪魔にならないようにと、素っ気なくひとくくりにされている髪も、今日は半分編み込まれている。

 一部残された髪は自然に流されて、銀色の髪が波打っていた。

「やっぱり、変ですか? あまり慣れていなくって」

 息を呑んだルーカスに、オリヴィエは心配そうに声を掛けた。

「い、いや! 見慣れないから、少し驚いただけだ。おかしくない」

 良かった、と安堵したオリヴィエに、ルーカスは内心で胸を撫でおろしていた。

(綺麗だ……)

 見違えて、見惚れたなんて言えるわけがない。

 彼女はもともと美しい娘だが、ドレス一つでこうも印象が変わるのか。

「ドレス、は、似合っている」

 ルーカスは、率直な感想を述べる。

 オリヴィエはパッと目を輝かせかけて、しかしすぐに眉を顰めた。

「ドレスは」、と微妙な褒め方をしたせいだ。と、すぐにわかった。

「いや、違うんだ。ドレスだけ似合っていて、他に何か問題があるとかではない」

「問題……?」

 また、妙な言い回しのせいで、オリヴィエは表情を不安そうに曇らせた。

 ルーカスは第一王子だ。

 堅物とはいえ、社交辞令くらいはお手の物だ。

 それなのに、たった一言褒めるのに、どうしてこんなに緊張するのか。

「違う! そうじゃない。あんまり綺麗だから、驚いたんだ!」

 耳が熱くなるのを意識しながら、ルーカスは懸命に言葉を発した。

 婚約者のレヴァンシエルを演じれば、難なく口にできた台詞だったろう。

 しかし、綺麗なのはレティーでなく、オリヴィエ本人だ。ここでレヴァンに逃げたくなかった。

 ルーカスの必死さが伝わったのか、オリヴィエはぽっと頬を赤らめた。

(可愛い)

 素直な反応に、ルーカスは心臓が締め付けられるようだった。

「それは……っ、ありがとうございます」

 レティーになり切れず、素直に礼を述べるところも可愛らしい。

 思わず頭を撫でたくなるが、慌ててひっこめた。

「では……行こうか。もうセルゲイが下で待っている」

「あ、はい。あの、私たちはどこから、その、フリをすればいいですか?」

 先ほどオリヴィエは、既にレティーの役に入っているようだった。

 それなのにルーカスが、団長の態度を貫いたから、困惑しているのだろう。

「そうだな。いきなり試して、ぼろが出ても困る。今からそう振舞うとしよう」

 ルーカスは、自然にオリヴィエの手を掬い上げ、自分の肘に掛けさせる。

 婚約者なのだからおかしくないと思ったが、さすがに出過ぎた真似だったか。

 そう思って見下ろすと、オリヴィエはまんざらでもなさそうに微笑んでいた。

「レヴァン、エスコートして頂けるんですか?」

「当然だ。婚約者なのだから」

 ルーカスは一先ず、レヴァン役としてレティーの好感度を高めるほうに目標を定めた。

 任務中は、職務に専念する。
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