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舞踏会
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「打ち合わせはここまでだな。明日、俺とお前はほとんど行動を共にするだろうから、都度確認し合おう」
「はい、ありがとうございました」
オリヴィエは、丁寧に礼を言って部屋の扉を開けた。
「お休み、レイ」
「おっ、……お休みなさい。レヴァン……」
自室に退けると、若干油断した最後の最後に、ルーカスはとびきりの微笑みで、オリヴィエに爆弾を投下した。
ぐはっ、と血反吐を吐きそうなダメージを受けて、脱兎の如くオリヴィエは自室へ逃げ帰った。
部屋に駆け込むと、ベッドに突っ伏した。
(なんなの、あの笑顔は!)
多少、態度の軟化は感じていた。
けれど、いきなり婚約者用の笑顔を向けるのは、反則だ。
今までだって、同じ部屋で過ごした時間はあったし、遠征では近距離で眠る夜も迎えた。
けれど、あんなに柔らかい微笑みは、一度も見たことがない。
(何よあれっ)
オリヴィエは、ベッドに頭をグリグリと押し付けて悶えた。
(いや、昔――一度くらいは見たかしら? でも、今日になって急に!)
まるで恋する乙女のようだ。
いや、実際自分はこの恋に翻弄され続けているのだから、まったく間違っていない。
「嬉しく、なっちゃうじゃない……」
あれは、婚約者役の練習か何かのつもりだろう。
たとえ練習でも、嬉しい。
オリヴィエはずっと、ルーカスに、あんな風に名前を呼ばれたかった。
(喜ぶのは構わない。けど、喜んでも、苦しいだけよ。だって、ルーカスは、そのうち聖女様と結ばれるのだから)
ルーカスは、好きな人にはあんな風に微笑むんだ。
結婚するんだもの。大切な女性だから、あんな素敵な笑顔を、向けるんだ。
そう思うだけで、オリヴィエの胸は、急転直下、張り裂けそうに痛んだ。
(そうよ、いつかルーカスは、私じゃない人のものになるんだ……)
明日だってその次だって、いつその日が来ても不思議ではない。
ひょっとしたら、冷たくされたままのほうがましだったかもしれない。
(油断しちゃダメ。喜んじゃいけない。でも……)
オリヴィエは、ごろん、と突っ伏していた身体を反転させた。
天井を仰ぎ見て――
オリヴィエは、振り切ったはずの自分の恋を、自覚した。
(私は、ルーカスが、好き……)
オリヴィエは、そう確信した。
知らずの内に、涙が二筋、こめかみのほうへ、つうっ、と流れた。
近くにいられればいいなんて、嘘だと思い知った。
でも、どうにもできない。
私は聖女じゃないし、きっと、もうすぐ死んでしまうのだから。
「はい、ありがとうございました」
オリヴィエは、丁寧に礼を言って部屋の扉を開けた。
「お休み、レイ」
「おっ、……お休みなさい。レヴァン……」
自室に退けると、若干油断した最後の最後に、ルーカスはとびきりの微笑みで、オリヴィエに爆弾を投下した。
ぐはっ、と血反吐を吐きそうなダメージを受けて、脱兎の如くオリヴィエは自室へ逃げ帰った。
部屋に駆け込むと、ベッドに突っ伏した。
(なんなの、あの笑顔は!)
多少、態度の軟化は感じていた。
けれど、いきなり婚約者用の笑顔を向けるのは、反則だ。
今までだって、同じ部屋で過ごした時間はあったし、遠征では近距離で眠る夜も迎えた。
けれど、あんなに柔らかい微笑みは、一度も見たことがない。
(何よあれっ)
オリヴィエは、ベッドに頭をグリグリと押し付けて悶えた。
(いや、昔――一度くらいは見たかしら? でも、今日になって急に!)
まるで恋する乙女のようだ。
いや、実際自分はこの恋に翻弄され続けているのだから、まったく間違っていない。
「嬉しく、なっちゃうじゃない……」
あれは、婚約者役の練習か何かのつもりだろう。
たとえ練習でも、嬉しい。
オリヴィエはずっと、ルーカスに、あんな風に名前を呼ばれたかった。
(喜ぶのは構わない。けど、喜んでも、苦しいだけよ。だって、ルーカスは、そのうち聖女様と結ばれるのだから)
ルーカスは、好きな人にはあんな風に微笑むんだ。
結婚するんだもの。大切な女性だから、あんな素敵な笑顔を、向けるんだ。
そう思うだけで、オリヴィエの胸は、急転直下、張り裂けそうに痛んだ。
(そうよ、いつかルーカスは、私じゃない人のものになるんだ……)
明日だってその次だって、いつその日が来ても不思議ではない。
ひょっとしたら、冷たくされたままのほうがましだったかもしれない。
(油断しちゃダメ。喜んじゃいけない。でも……)
オリヴィエは、ごろん、と突っ伏していた身体を反転させた。
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(私は、ルーカスが、好き……)
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知らずの内に、涙が二筋、こめかみのほうへ、つうっ、と流れた。
近くにいられればいいなんて、嘘だと思い知った。
でも、どうにもできない。
私は聖女じゃないし、きっと、もうすぐ死んでしまうのだから。
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