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舞踏会への招待状

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「けれど、団長にとってはご迷惑な想いだったようです。でも、もうわたしには騎士団の他に行きたいところはありません。ですから嫌がられても置いて頂いて、何とかお役に立てればと思っています」

「はは、オリヴィエ」

 セルゲイが優しく笑った。どこか、ホッとしたような笑顔だった。

「本気で迷惑だと思ってる? 君みたいな綺麗で純粋な子に好かれて、嫌な気持ちになる男なんていないと思うよ」

「そんな、まさか」

 オリヴィエは信じられないと目を見開いた。

「団長だって、きっと照れただけだよ。ほら、男は皆単純だから」

 セルゲイがまた的外れな慰めを言う。

 しかしこれ以上否定するのも失礼かと思い、生返事を返すに留める。

「きっと、大丈夫」

 何を以ってそう断言するかはわからなかったが、セルゲイの笑顔を見てオリヴィエも笑った。

 そうだといい、と切に願う。

 やがて馬車はある店の前で止まった。そこは帝都でも一・二を争う一流ホテルだった。

 ドアマンが恭しく扉を開けると、二人は店内に案内される。

「ようこそ、おいでくださいましたヴァンス様」

 セルゲイの本名はセルゲイ・ヴァンス。

 聖騎士団の副団長を務めているが、生まれはヴァンス領の公爵家だ。

 オリヴィエは、馬車から降りる際にセルゲイが手を差し出してくれたことを思い出した。

 彼は紳士的な振る舞いに慣れている。

「お久しぶりです」

 ホテルの支配人らしき男に声を掛けられ、セルゲイは慣れた様子で手を挙げた。

 オリヴィエも彼の隣に並んで小さくお辞儀する。

「急に無理を言って済まないね。マダムは、もうお越しかな?」

「ヴァンス様のお越しを、首を長くしてお待ちです。さ、こちらへどうぞ、ご案内いたします」

 セルゲイとオリヴィエは、支配人の先導でホテル内を歩いた。

 オリヴィエも貴族の端くれなので、こういう場所へ足を踏み入れた経験がないわけではなかった。

 だが、本当にここ数年は、武術にばかり明け暮れ、優雅さとは無縁に生きていた。

 何というか……この煌びやかさには目がちかちかする。

 調度品の一つ一つが高価で、廊下の端には金糸で刺繍されたタペストリーが等間隔に飾られている。

 やっぱり、こんな所へ来るのなら、もっとましな衣装を持参すれば良かった。

 オリヴィエは、客室のドアの前に立ってごくりと喉を鳴らした。

 セルゲイがノックし、中へ入る。

「ご無沙汰しております」

「ようこそいらっしゃいました、セルゲイ様! お待ちしておりましたわ!」

 室内にいたのは四十代ほどの、上品そうな婦人だ。

 オリヴィエはワンピースの裾を上げて、恭しくお辞儀する。

「わたくし、マダム・ラシェルと申しますの! お逢いするのが楽しみで、2時間も前に到着してしまいましたわ!」

「それは待たせてしまって申し訳ない」

 セルゲイは、婦人のテンションに押され気味だ。
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