上 下
34 / 140
舞踏会への招待状

しおりを挟む
 それから二人は馬車に乗り込んで、街まで移動した。

 道すがら、二人は何気ない会話を交わす。

「副団長は、いつ騎士団に入団したんですか?」

「うん? ……16の、時だったかな」

 セルゲイは思い出すように呟いた。

「君のお兄さんと同期だよ。クリストファー、だよね。第3隊は今、国境警備に遠征中だ。すぐに会えなくて残念だね」

「いえ、兄は私の入団を良く思っていないので、会っても気まずいだけです」

 オリヴィエは苦笑いした。セルゲイ相手に、つい本音が出たなと後悔する。

「普通は、そうだろう。じゃあやはり、君は家族の反対を押し切って入団したわけだ」

 オリヴィエはぐっと、答えに詰まる。

 家族に反対されたのに、無理に騎士団に入団した。

 加えて、団長にも退団を迫られたのに、撥ねつけた。

 セルゲイも、どれだけ身の程知らずだと、呆れているのか。

「私は別に責めているわけじゃない。純粋に知りたいだけなんだ。どうして、そうまでして君のような貴族の令嬢が聖騎士団に籍を置きたいのか」

 問われて、オリヴィエは黙り込んだ。

 自分がこんな所まで来たのは、全て――。

「誰にも、話さないでくれますか……?」

 馬車の中はセルゲイとオリヴィエだけの密室だ。

 客車の壁を隔てているから、御者にも会話の詳細までは聞こえまい。

「そんなに深刻な話なの?」

 オリヴィエは返答に迷った。

 深刻かどうか、わからない。

 でも、あまり他人に大きな声でしたい話ではない。

 セルゲイは何か感じ取ったのか苦笑する。

「わかった。私一人の胸に秘めておく」

「じゃあ……」

 と、オリヴィエは語り始めた。

 ずっと、ルーカスに恋をしていること。

 聖女にはなれないけれど、彼の傍で、この王国を支えたいと願ったこと。

 セルゲイは黙って聞いていた。時折頷くように相槌を打つ。

 いつ、オリヴィエの人生の幕が下りるかわからない、とオルガノの預言のくだりまで語ると、セルゲイはぐっと息を呑んだ。

 表情の変化は僅かだが、同情するように眉を顰めてくれた。

「それは、辛かっただろう。なるほど、良くわかったよ」

 セルゲイは一人、納得したように呟いた。

 オリヴィエの話に同情をしつつも、どこか腑に落ちない顔をしていたが、やがて話題を変える。

「……ところで、実際に団長と再会して、どうだった?」

「どう、と仰いますと」

「団長に、男を感じる?」

 オリヴィエは赤面した。いきなり何を言い出すのだこの男は。

 直接的な物言いについ動揺を誘われるが、すぐに思い直す。

 男性は女性と違う。きっと、こういう言い回しが普通なのだ。

 きっと女子でいう「あの方ってとてもエスコートが上手で素敵なの。逞しい腕に抱かれてみたいわ」のようなノリに違いない。

「私の想像していた以上に、素敵な殿方におなりでした」

 オリヴィエは、ルーカスの外見を思い浮かべた。

「男らしい中にも、品があって凛々しくて……」

 彼の仕草や表情を思い返すと、今でも吐息が漏れそうだ。

 それから有耶無耶の内にキスをされたこと、それから――……

 それから先も勝手に回想された。ので、首を振って断ち切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...