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舞踏会への招待状

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 やはり、ルーカスは私情で少なからず冷静さを失っていたらしい。

 上司失格だ。やはり迷いのあるまま任に就くべきではない。

「ボッカの人口は、およそ千人です。それほど大規模ではありませんが、社交場としては有名です。ただ、最近は他の街から流れてきたならず者が多く出入りしていて……」

「なるほどな」

 ルーカスは考え込んだ。その隙にセルゲイは次の案件に移っていく。

「俺たちは会場に出入りする不審者を見張る、繁華街にある賭博場に潜入するのは3人、周囲への配置は5人、仲介役はセルゲイ、お前だ。会場の入り口にも2人配備しろ。それに、伝令役が1人。8人の選定はお前に任せる」

「承知しました。リストは明朝お持ちします。では、食事が終わる頃、また戻ります」

「結構だ。片付けくらい自分でやるさ」

 ひらひらと手を振ると、セルゲイはさっさと背を向けた。

「では、失礼します」

 ルーカスも腰を上げたが、まだ心ここにあらずだ。セルゲイの去った扉を眺めながら呟いた。

「……全く、とんだ週末になりそうだ」






 ***







 今日は朝からどんよりと重たい雲が空を覆っている。

 ようやく今日から新しい日々が始まるのに、少しだけ残念だ。

「舞踏会、ですか?」

 オリヴィエは戸惑いながら、聞き返した。

 朝礼と午前の訓練を終えた後、オリヴィエは団長の執務室へ呼び出しを受けた。

 元から隊長――ルーカス付きの補佐役へ配属されたのだから、別段不思議な事ではないのだが、ルーカスからの呼び出しは、オリヴィエの心を上へ下へと揺さぶった。

 この部屋でのルーカスの振る舞いを思い出すと、どうにも落ち着かない。

 しかし入室してみれば、ルーカスは真面目な顔で椅子に腰を掛けていた。

「そうだ。ボッカを知っているか?」

 ルーカスは執務机に頬杖をつきながら、少しうんざりとした様子で、説明した。

「はい。シルバーモントからは離れていますが、活気のある街だと聞いています。実際に訪れたことはありませんが……」

 ボッカは、領主が賭博場を商業施設と容認している珍しい街だ。

 そのため税収にも恵まれ、栄えている。

 生活に困っても、ボッカへ行けば食いつなげる、一攫千金を夢見る商人たちが数多く立ち寄る商業都市でもある。

「あの街では、頻繁に貴族たちの舞踏会が開かれている。今年は大規模なもので、内密に警備を任されることになった」

「大規模な舞踏会? どうしてでしょう?」

 王族が主催するものならまだしも、貴族が主催の舞踏会に、騎士団が派遣されるのは珍しい。

 ましてや、招待客として招かれるなんて初めて聞いた。

 ルーカスは顎を撫でながら、何か思案しているようだった。

「招待客の中に、人身売買の関係者が潜んでいるかもしれない」

「なんですって!?」

 オリヴィエは驚き、声を上げた。
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