将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら

文字の大きさ
上 下
31 / 140
舞踏会への招待状

しおりを挟む
 やはり、ルーカスは私情で少なからず冷静さを失っていたらしい。

 上司失格だ。やはり迷いのあるまま任に就くべきではない。

「ボッカの人口は、およそ千人です。それほど大規模ではありませんが、社交場としては有名です。ただ、最近は他の街から流れてきたならず者が多く出入りしていて……」

「なるほどな」

 ルーカスは考え込んだ。その隙にセルゲイは次の案件に移っていく。

「俺たちは会場に出入りする不審者を見張る、繁華街にある賭博場に潜入するのは3人、周囲への配置は5人、仲介役はセルゲイ、お前だ。会場の入り口にも2人配備しろ。それに、伝令役が1人。8人の選定はお前に任せる」

「承知しました。リストは明朝お持ちします。では、食事が終わる頃、また戻ります」

「結構だ。片付けくらい自分でやるさ」

 ひらひらと手を振ると、セルゲイはさっさと背を向けた。

「では、失礼します」

 ルーカスも腰を上げたが、まだ心ここにあらずだ。セルゲイの去った扉を眺めながら呟いた。

「……全く、とんだ週末になりそうだ」






 ***







 今日は朝からどんよりと重たい雲が空を覆っている。

 ようやく今日から新しい日々が始まるのに、少しだけ残念だ。

「舞踏会、ですか?」

 オリヴィエは戸惑いながら、聞き返した。

 朝礼と午前の訓練を終えた後、オリヴィエは団長の執務室へ呼び出しを受けた。

 元から隊長――ルーカス付きの補佐役へ配属されたのだから、別段不思議な事ではないのだが、ルーカスからの呼び出しは、オリヴィエの心を上へ下へと揺さぶった。

 この部屋でのルーカスの振る舞いを思い出すと、どうにも落ち着かない。

 しかし入室してみれば、ルーカスは真面目な顔で椅子に腰を掛けていた。

「そうだ。ボッカを知っているか?」

 ルーカスは執務机に頬杖をつきながら、少しうんざりとした様子で、説明した。

「はい。シルバーモントからは離れていますが、活気のある街だと聞いています。実際に訪れたことはありませんが……」

 ボッカは、領主が賭博場を商業施設と容認している珍しい街だ。

 そのため税収にも恵まれ、栄えている。

 生活に困っても、ボッカへ行けば食いつなげる、一攫千金を夢見る商人たちが数多く立ち寄る商業都市でもある。

「あの街では、頻繁に貴族たちの舞踏会が開かれている。今年は大規模なもので、内密に警備を任されることになった」

「大規模な舞踏会? どうしてでしょう?」

 王族が主催するものならまだしも、貴族が主催の舞踏会に、騎士団が派遣されるのは珍しい。

 ましてや、招待客として招かれるなんて初めて聞いた。

 ルーカスは顎を撫でながら、何か思案しているようだった。

「招待客の中に、人身売買の関係者が潜んでいるかもしれない」

「なんですって!?」

 オリヴィエは驚き、声を上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...