27 / 140
事情
6
しおりを挟む
ルーカスは、プレートを持ったまま、2階の自室へと足早に戻る。
後ろからオリヴィエが付いて来るようで鬱陶しかったが、オリヴィエの部屋は隣なのだから仕方ない。
オリヴィエを部屋割りを差配したのは、ルーカスだ。
苛立ちに任せてプレートを握りつぶしかけ、すぐに思い直して乱暴に机に置いた。
部下の前では冷静でいなければ……そう思っていても、抑えようとするほどに怒りと焦燥が増していく。
理論的な判断が下せていないのは、何よりも自分が良く知っている。
オリヴィエは優秀な騎士だ。試験結果を見る限り、それは、認めるしかない。
しかし、ルーカスが彼女に求めているのはそういう能力ではない。
だが、何をどうしろというのか。何を教えろと言うのか。何を期待するというのか――?
『オリヴィエが美人で一番動揺してるのは、団長じゃないんですか?』
エリックの指摘が、脳裏に蘇る。
その通りだ。オリヴィエは美しくなった。
そうなるだろうと、誰よりも良く知っていた。
3年前の聖女選定では、ルーカスもまたショックを受けた一人だった。
オリヴィエこそが、聖女になると信じていた。
――だって、あの娘以上に、聖女に相応しい人間がこの世にいるか?
初めて彼女を目にした瞬間、天からの使いが舞い降りたのかと目を疑った。
月の光が零れたように神秘的な銀色の髪に、翡翠色の瞳。
白磁の肌は透き通るようで、彼女の周りだけ現実離れして見えた。
何もかもがルーカスから遠い存在で、それでいて、一番近くにあるように思えていた。
オリヴィエを、自分のものにしたい。
当時ルーカスは10歳だった。まだ性的な欲望は伴わない、だが、それが恋だと本能で知っていた。
オリヴィエが聖女になれば、この気持ちは成就する。
そう信じて疑わなかったし、時折耳にする噂話では、オリヴィエはルーカスの信じた通りの女性へと成長している
ようだった。
しかし、選定で落選してしまった。
どれほど大きな失意だったか、判らない。ただ、一つ確かなのは、彼女の落度ではないないことだけ。
ルーカスが生まれながらに第一王位継承者であることと同じように、定められた運命だった。
ならば他に打つ手はないのかと、頭を捻り続けた。
国教会へも働きかけた。しかし、何も変わらない。
やがて導き出した唯一の答えが、聖騎士団を最強の部隊に仕立て上げることだった。
聖女がなくとも、王国の安寧が守れると証明できればいい。
ルーカスが誰を妻に娶っても、誰にも文句を言わせない。
そのためには、一日も早く聖騎士団を盤石なものにする必要があった。
だが……
まさかオリヴィエが、騎士団の一員となるとは、思いも寄らない。
どうしてそんな道を選んだのだろう。
ルーカスのことは覚えているようだった。
オリヴィエにとってあの約束は、もう過去のものとなっていた。
聖女になれなかった時点で、ルーカスの妻にはなれない。と約束の無効を選択したのだろう。
後ろからオリヴィエが付いて来るようで鬱陶しかったが、オリヴィエの部屋は隣なのだから仕方ない。
オリヴィエを部屋割りを差配したのは、ルーカスだ。
苛立ちに任せてプレートを握りつぶしかけ、すぐに思い直して乱暴に机に置いた。
部下の前では冷静でいなければ……そう思っていても、抑えようとするほどに怒りと焦燥が増していく。
理論的な判断が下せていないのは、何よりも自分が良く知っている。
オリヴィエは優秀な騎士だ。試験結果を見る限り、それは、認めるしかない。
しかし、ルーカスが彼女に求めているのはそういう能力ではない。
だが、何をどうしろというのか。何を教えろと言うのか。何を期待するというのか――?
『オリヴィエが美人で一番動揺してるのは、団長じゃないんですか?』
エリックの指摘が、脳裏に蘇る。
その通りだ。オリヴィエは美しくなった。
そうなるだろうと、誰よりも良く知っていた。
3年前の聖女選定では、ルーカスもまたショックを受けた一人だった。
オリヴィエこそが、聖女になると信じていた。
――だって、あの娘以上に、聖女に相応しい人間がこの世にいるか?
初めて彼女を目にした瞬間、天からの使いが舞い降りたのかと目を疑った。
月の光が零れたように神秘的な銀色の髪に、翡翠色の瞳。
白磁の肌は透き通るようで、彼女の周りだけ現実離れして見えた。
何もかもがルーカスから遠い存在で、それでいて、一番近くにあるように思えていた。
オリヴィエを、自分のものにしたい。
当時ルーカスは10歳だった。まだ性的な欲望は伴わない、だが、それが恋だと本能で知っていた。
オリヴィエが聖女になれば、この気持ちは成就する。
そう信じて疑わなかったし、時折耳にする噂話では、オリヴィエはルーカスの信じた通りの女性へと成長している
ようだった。
しかし、選定で落選してしまった。
どれほど大きな失意だったか、判らない。ただ、一つ確かなのは、彼女の落度ではないないことだけ。
ルーカスが生まれながらに第一王位継承者であることと同じように、定められた運命だった。
ならば他に打つ手はないのかと、頭を捻り続けた。
国教会へも働きかけた。しかし、何も変わらない。
やがて導き出した唯一の答えが、聖騎士団を最強の部隊に仕立て上げることだった。
聖女がなくとも、王国の安寧が守れると証明できればいい。
ルーカスが誰を妻に娶っても、誰にも文句を言わせない。
そのためには、一日も早く聖騎士団を盤石なものにする必要があった。
だが……
まさかオリヴィエが、騎士団の一員となるとは、思いも寄らない。
どうしてそんな道を選んだのだろう。
ルーカスのことは覚えているようだった。
オリヴィエにとってあの約束は、もう過去のものとなっていた。
聖女になれなかった時点で、ルーカスの妻にはなれない。と約束の無効を選択したのだろう。
50
お気に入りに追加
630
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。
kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」
父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。
我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。
用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。
困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。
「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました
ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる